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夜景だけが知っている。
オフィスの窓から紫乃は夜景を
眺めていた。
「随分と無防備じゃん。」
背後に回ってきたのは、営業課のエース・水澤俊。
高身長・高学歴に続き、おまけに
イケメンときた。
無意識に社内の女子を夢中にさせている。
魔性の男、という言葉がもし存在するならそれは彼のために作られた言葉なのかもしれない。
「無防備って…残業のあとの夜景を楽しんでただけよ。」
紫乃は口を尖らせる。
「ふぅーん。彼氏と2人きりだっていうのに?」
信じられない事に、この男は紫乃の彼氏なのだ。
馴れ初めとか、そういうのはここでは省略させてもらう。
「だって、ここは会社…」
でしょ、と言い終わる前に形のいい唇に塞がれた。
「なにすんのよ!」
紫乃は彼の厚い胸板を押して、必死の抵抗を試みるが、びくともしない。男女の差というものを改めて思い知らされる。
「そんな目で見られても、可愛いだけなんだけどな。」
多分、今私の顔は真っ赤だろう。
暗くてよく見えないけど、俊は余裕げな笑みを浮かべているに違いない。
「悪いことしよっか?」
俊はそう言うと、私をひょいと持ち上げた。
「おろして!」
たくましい彼の腕の中で私は暴れる。
気がつけば、私は会議室まで運ばれて大きな机の上に優しくおろされた。
「何する気?」
「分かってるくせに。
やーらしいね、紫乃ちゃんは。」
俊は揶揄う時、ちゃん付けで呼ぶくせがある。普段は呼び捨て。
仕事中は星野さん。
「あーあー、普段は真面目な事務員さんが会議室でこんな事してるって知ったら、みんなどう思うかな。」
俊はブラウスのボタンに手を掛けていく。
こうされたらもう、紫乃はやめても言えないし、されるがままだ。
「こんな下着つけて、こういうことするって分かってた訳?」
俊の言葉に、私は首を振る。
「なに、じゃあ。ここで辞めてもいいの?」
「い、いや。最後までして…。
して下さい。」
「はは、かーわい。」
キスを交わしながら、紫乃は俊のネクタイを緩める。
ワイシャツを脱がして、ベルトに手をかける。
彼のものは、もう熱くなっていたし、紫乃も十分すぎるくらいに
トロトロだ。
「あっ。」
俊の長い指が、敏感な部分に触れる。
もう何回もこういう事はしているのにいつも声が出てしまう。
「誰もいないから、我慢しないで。」
俊のその言葉を合図に、紫乃の喘ぎは大きくなる。
俊の吐息が荒くなっていくのが聞こえる。
「俊…好き。」
「俺の方が好きだよ。」
身体が重なり合うと、会議室の机がギシギシと音を立てた。
「もっと奥…して?」
俊を見上げて、首に手を回す。
「紫乃、そんな動きされたら俺
やばいって。」
「さっきまで余裕そうだったのは
どこの誰?」
腰を動かすと、俊の低い声が漏れた。
こういう表情、他の女の子たちは知らないのだ。そう思うと、優越感に浸れる。
その後も終電の時間まで、私達は
誰もいない会議室で愛し合った。
「紫乃!走れ!」
「ちょっと!ヒールなんだから走らせないでよね。」
終電ダッシュなんて、大学生みたいな事、俊と一緒なら楽しい。
ねえ、俊。明日もまた愛してね。
なんとか間に合った電車の中、私は大好きな彼の肩に身を預けた。
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