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寝ても醒めても
ふわりと香るシガレットのほろ苦い香りとベルガモットとローズの華やかな香水を纏う彼が大好きだ。
大きな、それでいてほっそりとした指が煙草を挟み、口元へと運び火をつける。紫煙が立ち上り、部屋を白く煙らせた。
「位置が悪い」
そう呟き、キューを構える。2度、3度ストロークを繰り返し強く打ち出す。甲高い音で球を弾きポケットに数個、球が転がり落ちた。
「わぁ、凄いねぇ」
そう声を上げる私に少し口元を緩める彼は私の恋人であるサトル。
「加奈も練習すればこれくらいすぐだよ」
「うーん、だって一緒にプレイするとサトルのことじっくりみれないじゃない」
「どんな理由だよ」
苦笑いを浮かべ次のショット。あまり遊んでこなかった私に色んなことを教えてくれるのだが、私が下手すぎて申し訳ないのとサトルの所作を目に焼き付けるので忙しく大体が後ろで見ていることが多い。
「ん、終わり。帰ろうか」
「なんかごめんね、ちっともうまくならなくて相手になんなくて」
「俺が好きで加奈に色んなことを知って欲しくて連れまわしてるだけだし、逆に加奈はつまらなくない?大丈夫?」
「うん、サトルを見てるのが幸せだからちっともつまらなくないよ」
「可愛い奴」
くしゃりと頭を撫でてくれる手が温かくて、落ち着く。サトルとは職場の他社交流飲み会で知り合った。つまらなさそうにお酒を煽っていたのが印象的だった。
悪酔いした先輩の絡みに耐えられず逃げるように夜風に辺りに行くと喫煙所で紫煙を燻らせるサトルがいた。
「なんかウザ絡みされてたよね、君。逃げて来たの?」
「あ、うん。えっと……」
「ああ、桜井サトル」
「あ、私は柳原可奈です。サトルさんもなんかつまらなそうにしてましたよね」
「俺、静かに飲みたいタイプだから普段こういうの参加しないんだけどね、今回は強制的に」
形のいい唇が煙を吐き出す。藍色の空が白く煙る。
「……2人で逃げちゃう?あぁ、別に取って喰うつもりはないから安心して。抜け出すなら女の子の体調気遣って〜とかそういう方が楽に抜けれるだけだし」
「ふふっ、そういうことなら、お願いします」
それがきっかけで付き合ってもうすぐ1年になる。
同じ職種だが会社は別なので休みは取りやすいものの繁忙期になるから少し早めの記念日デート。
店を出て夜の街に浮かぶ彼の背中を追って、手を取る。
「加奈は攫われんのと送り狼、どっちが好み?」
意地悪な笑みを浮かべそう問うサトル。迷って耳元で囁くように告げる。
「攫われたい、かな」
「リョーカイ」
指を絡め取られ、恋人繋ぎで夜の街を歩く。ドギマギとしながら言葉少なに押し進み、ホテルの一室に辿り着く。
すぐにベッドに押し倒され重なった唇はほろ苦く、痺れさせてくれる。
「まって、シャワー……」
「だめ、加奈が可愛いから我慢出来なくて」
ちゅ、ちゅとキスの雨が降り、器用に脱がされていく。
唇から頬、頬から首筋、鎖骨、胸元、お腹と徐々に下がっていく。擽ったさと気持ちよさが綯い交ぜになった刺激に声が漏れてしまう。つい腕で塞ぐと「だーめ」と腕を押さえ込まれる。
「可愛い声、聞かせて?全部を見せて」
そう顔を覗き込み、両手を片手で押さえ込み、もう片方の手で私を探る。電気が走るかのような甘い痺れに身を捩るが、拘束は解けずに追い込まれていく。
「あ、やぁ、も、う……いっちゃ……」
「だーめ。まだダメだよ。勝手にイッちゃだめ」
「ひぁっ、んんん……だめ、むり、イッちゃ、う!」
その瞬間手の動きが止まりもう少しでという所で波は引いてしまう。
何度も
何度も繰り返される寸止めにじっとりと汗が浮かび、思考が止まってしまう。
「も、さとる、ほしい、だめ、がまんできない……」
「欲しいの?でもだーめ。代わりにイクとこみせて、ほらっ」
中を掻き混ぜるように刺激され、悲鳴のような声で果ててしまう。一息ついたと思った瞬間また責め立てられ、何度も果てる。
「ほら、気持ちいいでしょ?じゃあ、もっと気持ちよくなって」
私を押し開き中へと入る感触に壊れたように声を上げてしまう。
何度も、何度も、なんども。
何度果てたかわからない頃に私は意識を手放した。
そう思ったら、何度も、何度も訪れる快楽に身を捩り続けた。だが私は私を見下ろしている。
夢だと明確にわかったが、その快楽を享受し、溺れた。
寝ても醒めても。
あなただけが私を壊してくれる。あなただけが私を愛してくれる。
「すき、すき、あいしてる」
快楽に溺れて夢を見たい。そう、ふわふわした意識の中願った。
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