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あるママの昔話
あたしはこれでもモテていたのよ。信じてくれるの? 綺麗? ありがとね。
昔話を聞きたい? いいわよ。そうねえ……じゃあ、話してあげる。
あたしは一応結婚しながら、スナックで働いていたの。亭主はダメな人だったわ。お酒で暴れるわ、賭け事はするわでね。金遣いが荒かったわあ。
あら、ごめんなさい。もういない人の話はおしまいよ。
本題に入りましょうかね。
あたしを慕ってくれて使命してくれた人は大勢いたの。その中でとびきり男前だった良さんという人がいて、あたしも彼もお互いに夢中になっていたわ。
良さんはあたしにさえ本名を教えなかった。良さんは仮名。良心的な人だから良さん。
「何故、教えてくれないの?」
「そりゃあ男にも秘密ってもんがあるんだ」
「ふーん」
あまり興味がない返事をしてしまったけど、本当はそんな良さんをかっこいいと思ったわ。
良さんはお酒は下戸で、そこがまた可愛くてね。いつだったか、泣きながら言われたのよ。
「おめえを抱きてえよ」
そのとき、この人もあたしに本気なんだって思った。
「いいわよ、良さんなら」
「そんなこと軽々しく口にするもんじゃねえ」
自分で言ったのにおかしなことを言うもんだと思ったけど、今になってみると、確かに女の言うことじゃなかったかもね。
良さんの特徴? そうねえ。体が凄く大きかったわ。胸板が厚くて、がっしりした体型だったわ。凄く力持ちでね。迷惑なお客さんがいたら、力づくで外に追い出していたの。まるで用心棒みたいだったわあ。
それからしばらくして、良さんが言ったの。
「俺、帰ることになったんだ」
「青森、だったかしら? なんで? 寂しい」
「親がな、もう歳なんだ」
良さんはその日、凄くお酒を飲んで、潰れていたの。ご両親に不幸があって、それで荒れていたのね。あたしが特別に介抱してあげたの。
良さんの家に送り届けるのもあたしがしたのよ。家に行くのは初めてだったけど、場所は知っていたの。それで良さんと中に入って、あたしは帰ろうとした。
そうしたら、良さんがいきなりゴツゴツとした手であたしの腕を掴んできたの。
「帰らせねえよ」
目がギラギラとしていて、暗闇の中で光る目が綺麗だったわあ。
馬鹿だと思われるかもしれないけど、あたしは靴を脱いで部屋に上がったの。
そのまま、良さんと激しいキスをしながら、服を脱いでいった。何もかも脱ぎ捨ててあたしは良さんの分厚い胸板に頬を寄せたの。良さんは綺麗好きだったんだけど、その日は暑くて、良さん自身の匂いがムンムンとしていたわ。あたしそれをうっとりとして嗅ぎながら、良さんの愛撫に酔っていたのよ。良さんは見た目からは信じられないくらい繊細なタッチであたしを責めるの。こう、楽器を弾くようにして、あたしの体の上に指を滑らせていった。その微妙な力加減が大好きで、「もっとぉ」なんておねだりしてね。
本番は意外とするりと終わったわ。体の相性が良かったのか、あたしのナカと良さんのアソコがぴったりとハマったの。あら、ごめんなさい。こんな話はあまりするものではないわね。
亭主以外の男は久しぶりだったから、あたし凄く盛り上がっちゃって、良さんにおねだりばかりしていたわ。それに良さんがあたしのことをあまりにも可愛い可愛い言うものだから、余計にね。
本番は一回だけだったけど、あそこまで気持ちいいセックスは初めてだった。今でも思い出すと体が疼くの。
その跡、良さんに抱いてもらうことはなかったわ。すぐに青森の実家に帰ってしまったから。まあ、一夜の夢と言ったところかしら。
あら、お酒がないわね。ちょっと取ってくるから、何がいい?
え、良さん? 良さんはいつもウィスキーをロックで飲んでいたわ。あら、それを頼もうっての。あなたも物好きね。
完
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