0

0
BL

不機嫌な師匠に溺愛されています

 高柳清矢(たかやなぎせいや)は苛ついていた。朝からどうも気分が悪い。6月の間中、連日降り続いた雨とまとわりつく湿気で体調は思いのほか、優れていなかった。

 汗が体のいたる場所を伝う。それだけでも不快だった。着ている柔道着も何もかもが邪魔なように思えた。

 ここは社会人サークルで柔道をメインに活動している柔道場だった。ある者は組み手の練習をし、ある者はトレーニングを行っている。そこへーーー

「先輩、お疲れ様です」
後輩の1人である桐谷賢志(きりたに けんじ)がタオルとミネラルウォーターを彼に差し出した。
「堅志」

 清矢はタオルとミネラルウォーターを受け取る。一気に水を身体の中に流し込んだ。身体の熱が取れた気がした。

「堅志、この後、空いてるか?」
「あ、はい……特に予定ないんで……」
「だったら、俺んち来い」

 清矢の言葉に不吉な予感を感じつつも、彼は言葉に応じた。

***

「―――んっ……」

 リビングの椅子にどっかりと座り、大胆に開かれた清矢の両足。下着の隙間から、堅志が跪いて彼の恥部を舌で撫でている。清矢といえば、彼の愛撫を受けながら、酒を飲んでいた。唾液に塗れながらも、彼は慈愛にも似た堅志のそれを感じている。

「そう……それでいい」
「先輩……まだですか…?」
「続けろ、まだ止めろとは言ってない」
「ふぁい……」

 咥えながら返事をする。しかし、そんなことは清矢は気にしていないようだった。

 柔道の終わりには、清矢の部屋を訪れ、二人でシャワーを浴び、こうして秘密の関係を持つのが日課だった。こういった行為も清矢の疲れを癒せるのなら……と堅志は勤しんでいた。

「堅志、終わりだ」
「え?」

 恥部が口から離れると、スッと清矢が立ち上がる。

「こっち来い」

 彼に促されるまま、堅志も立ち上がる。清矢がドアを開けると寝室が広がっていた。その瞬間、堅志は清矢に押し倒された。鍛え上げられた清矢の腕力に敵うはずもなく。

「せ、先輩っ……!」
「いいだろ、いつものことなんだから」

 束の間、唇を重ねられる。すかさず清矢の舌が堅志の口内に入り込んだ。両手を絡め取り、逃げられないように押さえつける。堅志が唇から逃れようと顔を背けると、清矢は耳朶を軽く噛んだ。

「あっ痛……!」

 必死に対抗するが、びくともしない。しかし、清矢の手が堅志から離れたと思うと、次は堅志の胸の突起を摘んだ。耳朶は唇に含まれる。

「んっ……!」

 抵抗するはずの堅志の手はシーツを掴んだ。堅志は清矢の行為を受け入れてしまっていた。

「はぁ……せんぱ……」

 清矢には聞こえていないのか、動きを止めない。下半身が熱くなってくる。そして、清矢の手は堅志の下半身に伸びた。冷たい手に触れる。

「おまえ、こんなに勃ってんのな」

 慣れた手つきで堅志の下着を脱がすと、両足を開かせた。今度は堅志の恥部に舌を這わせた。

「あぁっ……!!や、う……」

 そして強い力で吸い上げる。身体が跳ねた。快感が堅志の身体に押し寄せる。胸の突起も唇で吸い上げた。次第に堅志の呼吸が荒くなっていく。清矢は彼の両手を頭上で押さえつけると、再び唇を吸い上げた。もう片方の手で恥部を撫でる。ぬるっとした体液がそこを濡らした。

「ここもこんなに濡れて……身体は正直なんだな……」

 耳元で囁き、しかし清矢は動作を止めない。両手を押さえつけられてしまったから、逃れることも出来ない。恥部を撫でる清矢の手は次第に強くなっていく。

「あっ……せんぱ……い、イク……!」

 思わず身体がのけぞる。清矢は堅志のそんな表情をまじまじと見つめた。

「我慢なんてする必要ねぇ。そのままイッちゃえよ、堅志」

 堅志は顔を背けた。果てる瞬間の表情を見られるのが恥ずかしかった。しかし、清矢の手は続いていた。

 程なくして、堅志は彼の手によって果ててしまった。彼の下半身は白濁した体液で汚れた。

 「…………。」

 力尽きて、ベッドに横たわる堅志を横目に、清矢はタバコを咥え火を付けた。煙を吐き出すと、タバコの香りとともに部屋に充満した。

「せ、先輩……」
「どうだ?今日のは」
「い、いつもより激しかったです……」
「だろうな。お前、早かったもん」
「……恥ずかしいですよ……」

 清矢は再びタバコの煙を吐いた。堅志の鼻腔にタバコの匂いが入ってくる。この時間が彼にとって、安らぐ時間だった。

「でも、良かったよ」
「な、何がですか……?」
「お前が他の女のところに行くようなこと、ないからな」

 彼の言葉に堅志は微笑んでみせる。

「……当然じゃないですか、先輩」
「……堅志」

 堅志は清矢の瞳を見つめて言う。

「俺は先輩だけのものですから」
「……言ったな?」

 清矢が不敵に微笑む。灰皿でタバコの火を消すと、彼は堅志に重なった。

「もう1ラウンドだ」

 そう言うと、堅志の足を絡めた。そして、口づけ。清矢の吐息からはタバコの香りがした。彼を左腕で優しく抱いて、右腕で彼の胸を撫でた。堅志は清矢の背に腕を回す。

「ん……」

 唇が離れた。彼は清矢を見つめる。

「先輩……俺……」
「何だ?」

 おずおずと堅志は口を開く。

「俺、もっと欲しいです、先輩のこと」
「……そうか」

 それだけ言うと、再び口づけた。舌が入り込む。受け入れる堅志。おもむろに清矢は唇を離した。

「堅志、四つん這いになれ」
「えっ?」
「いいから」

 清矢に言われるがまま、堅志は四つん這いになる。むき出しの臀部が清矢にさらされ、羞恥心が湧き上がる。

「あの、先輩……?」

 清矢は堅志の腰を捉えた。彼は起った自身の恥部を掴むと、ゆっくりと挿入した。

「あぁっ……!!い、痛い……」
「もっと力を抜け。大丈夫だから」

 堅志の中で、清矢のものが行き来する。彼は体勢を崩すまいと拳を握りしめた。

「はぁ、はぁ……」

 さらに挿入した状態で、清矢は彼の背中に被さった。後ろから手を回し、それぞれの手で堅志の薄い胸板をまさぐった。堅志の胸の突起がつままれる。

「んんっ……あ……」

そこから清矢は堅志の手を重ねる。堅志は抗うことが出来なかった。さらに腰の動きも加わって、堅志は強く喘いだ。

「……いっ……やぁ……!」

 ズブズブと清矢のものが入り込んでくる。動きが強くなるたび、快楽が再び押し寄せた。絶頂へ導かれていく。

「どうだ……気持ちいいだろ……」

 耳元で囁く。清矢はさらに熱い息を吐いた。堅志の身体が一瞬震える。彼は頷いた。

 清矢は激しく動いた。彼の息遣いも荒くなっていく。

「あぁ……先輩……!」
「堅志……顔を見せろ……」

 彼はおずおずと清矢に振り向く。その表情は何処か恥ずかし気だ。堅志の表情を見て、微笑む。

「俺も……気持ちいい……」

 清矢の息遣いも次第に荒くなっていく。二人の声が重なる。

「堅志……そろそろ……出すぞ……」

 彼の中で清矢のものがどんどん膨張していくのを感じた。

「は……あ……」

「……あああぁぁっ……!!」

 ―――そして、二人の身体が絶頂を迎えた。

 降り注ぐシャワーを浴びて、清矢は汗を流した。湯気が浴室を満たす。身体はどっと疲れていたが、心は軽くなったような気がしていた。シャワーを止め、脱衣所へと出る。新しい下着とジーンズを履くと、リビングに出た。リビングから見える、開いたドア越しに寝室を覗き見ると、堅志が静かに寝息を立てていた。薄いタオルケットをかぶり、仰向けで眠っている。

 清矢は黙ってリビングのカーテンを開けた。もう朝日は昇っていた。雨上がりで、雲の隙間から見える太陽の光の筋が眩しい。スマートフォンを見ると、今日は日曜日。堅志が起きるまで何をしようか……と考えていたその時。

「あ……先輩、おはようございます……」

 後方から起き抜けの堅志の声。目をこすりながら、清矢のほうに近寄ってきた。

「いつから起きてたんですか……?」
「ずっと前から起きてたよ。さっきシャワー浴びてきた」
「そうでしたか……」

 寝惚け眼で答え、おもむろに背伸びをする堅志。清矢の隣に立ち、窓越しに外の風景を見る。マンションの上層階からは家屋や所せましと立ち並ぶビルが朝日に照らされて、これから日常が始まることを告げようとしていた。

「昨日まで降っていたのに……やっと晴れたんですね」
「そうみたいだな」
「このまま晴れの日が続くといいんですけど」
「まぁな」

 清矢は言った。

「あ、お前もシャワー浴びてこい。俺、朝飯作るから」
「えっ……でも、悪いですよ」
「いいんだよ、俺がやりたいだけだから」
「……分かりました。じゃ、お風呂場、借りますね」
「おぅ」

 そう言いつつ、浴室へ向かう堅志の背を清矢は追いかけた。

 後ろから、そっと抱きしめる。

「先輩?」
「あ……悪い。あのさ」
「……はい」
「今日この後……遊園地とか行かないか?」
「……へ?」

 清矢の腕を優しくほどきながら、堅志は言った。

「珍しいですね、先輩が遊園地だなんて」

 そう言う堅志の瞳は、何処か輝きを秘めていた。

「……う、うるせぇ。そういう時もあるんだよ」

 清矢の言葉に、堅志は笑ってみせた。

「いいですよ、先輩。なんか久しぶりだなぁ、遊園地!俺、絶叫マシンが好きなんですよね!先輩は好きですか?ジェットコースターとかフリーフォールとか」
「お前……そっちの人間だったのか……」

 子供のようにはしゃぐ堅志。清矢はぼそっと言葉が漏れた。

「じゃ先輩、俺、シャワー浴びてきますね」

 堅志の手前、清矢ははっきりと苦手とは言えなかった。堅志はというと、鼻歌を歌いながら浴室へと向かっていった。

「……まぁ、いいか」

 一人呟いた。天気が良いからなのか、昨日の行為が良かったのか分からないが、今日は気分がいい。ふと耳をすますと、シャワーの音が聞こえてくる。清矢は冷蔵庫を開ける。二人分作れるだけの食材があった。

 朝食の後は男2人だけの遊園地へ。雨上がりの、楽しい1日が始まろうとしていた。

Profile Image

うさはな

お目に留まりましたら幸いです!色んなジャンル書いていきます~✨

XLineShare