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結ばれることのない二人…
「お疲れ様です。」
「あぁお疲れ様。」
「やっと1週間が終わったぁ。」
「はは、そんなにハードだったか?」
「もう主任、冗談はやめてくださいよぉ。マジで今週はやばかったじゃないですか~。」
「だな。ほんと今週は、お疲れ様。」
金曜日の午後五時半。
久々の定時終了に沸き立つ、企画部の面々。
「もう、パーッと飲んで、がっつり食べたいです!」
そんな社員の提案に、
「よし!じゃみんなでどうだ?おごるぞ。」
という主任。
そんな主任の言葉に、「やったー、太っ腹!」…などなど、周りはさらに盛り上がる。
「本当にいいんですか…?」
そっと主任に聞いてみた。
「実は、上からちょっとしたご褒美が出たんだ。」
それが周囲にも聞こえたのか、社員のみんなから、笑いがもれる。
主任は頭をかいて、照れくさそうにしている。
可愛いなぁ…。
そんな彼を、私は、後ろからそっと見つめる。
そんな私の視線に気づいたのか、彼もほんの僅か、私に視線を送ってくれた。
それだけで、胸の奥がつかまれるような、ギュっとなる気持ちになる。
頭をかく彼の薬指には、シルバーのきれいなリングが光っていた…。
***
私は、依田明美(よだあけみ)。
ガシャポンやゲームコーナーにある、キャラクターを作っている会社の、企画課で働いている。
仕事もやりがいがあるし、仲間にも恵まれている。
プライベートだって…悪くない。
彼とも、うまくいっている。
いや、“うまくやれている”。
彼とは、私が入社してからすぐに、関係が始まった。
よくある、部下と上司の社内恋愛だ。
その年の新入社員で、企画部に入ったのは私一人だけだった。
主任である彼、真崎陽一(まさきよういち)は、ほんとに親身になってくれた。
新歓の夜。
私たちは当たり前のように、体の関係を持ったのだ。
軽い女だと思われても、どうしようもないくらい、彼に惹かれてしまった。
仕事中近づくと香ってくる、柔らかい柔軟剤のにおい。
触れ合うと感じる、たくましい筋肉…。
どんな時も、私を励ましてくれる笑顔…。
彼のすべてに、私は恋焦がれていた。
彼に抱いているのは、純愛だと思っている。
でも、時折私と重なる左手に、存在を主張する指輪。それに触れたときに、”いけないこと”であることを思い知らされる。
『妻とはもうただの同居人だ』
なんていうけど、じゃあ、なんで別れないの?
…なんて、子供じみた嫉妬をしてしまう。
わかってる。
私が非常識な存在だってこと。
わがままなんていう権利はないし、彼を独占することなんてできっこない。
***
1週間、みっちりと仕事を詰めていたみんなの解放感は、半端なかった。
みんなでわちゃわちゃしながら、エレベーターに乗る。
私と主任は、奥の隅に追いやられてしまった。
割といっぱいになったエレベータ―で、私は彼と隣になる。
それだけで、私の体は熱くなってしまう…。
それなのに…
「!」
彼の手が、私の手を探して、体に触れてきたのだ。
ヤダ…みんないるのに、そんなことされたら…。
上気した私の顔を見下ろして、いたずらな笑顔を見せる彼を、ちょっとにらむ。
しばらく彼に触れていなかったせいか、仕事からの解放感なのか、私の体はすごく敏感になっていた。
課のみんなといるのに…。
つい体が熱くなってしまって、揺れてしまう。
“ポン,一階です”
エレベーターの通知音で、理性が保たれる。
みんながエレベーターから降りていき、彼もみんなに続いた。
「依田、おいてくぞ。」
少し遅れた私に、まぶしい笑顔を向ける彼。
ほんとずるいんだから…。
***
「おつかれさまでしたぁー。」
「おう、また来週な。」
終電間近に、飲み会がお開きとなった。
みんなは、それぞれの帰路にたった。
私もアパートに向かうべく、タクシーを拾った。
誰かに見られるのを避けるために、彼と借りた、少し会社から遠いアパート…。
繁華街から少し離れたところでタクシーを拾うと、コンコンと私が乗ったタクシーの窓がたたかれた。
「悪い、俺も乗せて。」
そう言って陽一が笑顔を見せながら乗り込んできて、すぐに私の手を握る。
「○○台まで」
行き先を告げると、タクシーは発進した。
***
鍵が閉まる音と同時に、私は彼に抱き締められる。
「明美…」
すぐにブラウスをスカートから引き抜き、私の唇を自分の唇でふさぎながら、焦れったそうにボタンを外す。
「陽一…ちょっと…」
余裕のないその行為に、明美の気持ちは追いつけず、思わず彼の名前を呼ぶ。
「ごめん、でも…」
そう言って、今度は自分のベルトを外す。
「ちょっと、…シャワー…」
「いいよ、このまま…」
話すのももったいないと言わんばかりに、私の唇から口内まで犯してくる。
あぁ、時間がないのかな?
帰る時間を気にしてる?
…なんて色気のないことを、心の中で考えてしまうのだ。
無抵抗に床に押し倒された私に気づいて、
「明美…、今日は泊まれるよ。」
彼はそういった。
ほんと勘の鋭い男だ。
仕事中に大人な一面もあるのに、たまに無邪気な少年のようだったり。
私を抱くときはいつも、童貞の少年みたいになる彼…。
そんな彼の姿に、ますます私は、夢中になってしまうのだった。
『泊まれる』
その一言で、うれしくなる私も大概だけど…。
まぁ、彼が家に帰るのは、月の半分だ。
夫婦関係がどうなってるのか、奥さんはどう思ってるのかなんて、私にはわからないけど、実際会社に泊まっていることもあるし…。
「…がっつきすぎ。」
嬉しさを隠すために、そう言ってみる。
「だって、もう1週間も、明美にいれてないんだよ。」
「挿入(イ)れてないって…。もっといいかたあるでしょ?」
「…、触れてない?」
とりあえず、そう言い換えてくれる。
もう、どうでもいいや。
「私だって……」
「…さっきエレベーターでさ…。もう濡れてたんじゃない?」
「!」
私は反論できなかった。
「ほら。」
スカートをまくられ、ストッキングを破られて、下着の中に手を入れられる。
ぴちゃ…
彼の指が、私からあふれた水をかき回す。
「すげー音。」
彼は、いちいち、デリカシーがない。
「でも、これって、俺がさせてるってことでしょ?」
そして、どこまでも傲慢。
まぁ、間違っていないんだけど。
「あぁ、久しぶりに見るなぁ、明美のおっぱい。」
そう言いながら、勢いよくしゃぶりつく。
そして、優しく口に含んで、舌で転がす。
「ん…あっだめ…」
「明美、やばいよ、これだけでもうイキそうじゃない?」
あぁ…ほんとにやばい…。
「一回イかせてあげる。」
そういうと、陽一の指が、私の中に容赦なく入ってくる。
大きくて長い彼の指。
「…!はっ、あん…」
「いいよ、イって。」
「あぁ、う、うん…」
「そしたら、あとは、じっくりやるから。」
そう耳元でささやかれて、あっけなく、私は上り詰めてしまった。
***
床に背中を預けてぐったりとしている私の髪を、陽一がそっと撫でる。
「ふふ…、かわいいね。」
急に大人びた態度を見せる彼。
「指でイっちゃったね。しかもこんな短時間で。」
「だって…」
「ねぇ、仕事してるときとか、俺の指見てるよね?それって、こういうことされるかも、とか、ひそかに妄想しちゃってるんじゃないの?」
顔がかッと熱くなる。
今まで、全く考えないわけじゃない。
でもそんなふうに言われたら、意識してしまう。
「え?図星?まったく、明美はエロイね。」
チュっとおでこにキスをする。
「ところでさ。」
そう言って、私の手を取る。
そして、そっと、自分の股間に持って行く。
「わかる?」
彼の”それ”は、はちきれそうにそそり立っていた。
「エロい明美のせいで、収まりつかないんだけど。」
ちょっと意地悪な気持ちになって、触れているペニスを、指でツーっと撫で上げる。
「…うっ!」
陽一は、声を出して腰を折った。
「バカ!出ちゃうだろ。」
「ふふ…」
ガバっ!
突然お姫様抱っこされて、ベッドに運ばれて、乱暴におろされた。
「覚悟しろよ!」
私に覆いかぶさって、獣のような目と、低い声をぶつけてくる。
「陽一…!」
「ダメ、『主任』って呼んで!」
「…」
私がためらっていると、目の前に、彼の”モノ”が、突き出された。
「ほら、しゃぶれよ“依田”。」
彼の猛(たけり)で、唇をつんつんとする。
「…、主、主任。」
そう口にして、体がぞくぞく震えたのに気づく。
じゅる…
目の前の棒を舌先でなめる。
それだけで顔をゆがめて、腰を押し付けてくる。
「う、ん …」
口いっぱいに彼のものが入り込んでくる。
無我夢中でそれを舌でなぶり、すったり出したり、愛撫を重ねた。
そしてそれが少し質量を増したとき、彼は腰を引いた。
「ねぇ、イキそうなの?」
「あぁ。」
「お口に,お口にちょうだい」
自分でも言ったことに驚く。
陽一も驚いている。
「…あーんして?」
それでも、後に引けなくて口を開けて、彼のものを食べに行く。
すると彼は無言で、私の口の中に入ったものを腰をふって、打ち付けるように出し入れし始めた。
「うっ….うぅ」
くるしい…。
でも、愛おしい。
彼も気持ちよさのあまり、苦しそうな声を出している。
「だすぞ!」と言って、彼のはきだした液体が、私の口内を熱くした。
飲み込み切れない白濁が、口端から溢れ出てしまう。
彼がそっと、ティッシュでぬぐう。
「出して来いよ」
「ダメ…、もう飲み込んじゃった。」
そういうと、陽一は頭をそっと撫でてくれた。
「明美は、仕事もエッチも一生懸命だな。」
「だって、陽一の役に立ちたい。」
「はは…。口をゆすいでおいで。そしたら今度は、いれてあげるから。」
口をゆすいでベッドに戻ると、陽一は携帯を見ていた。
その姿を見て、なんだか少し悲しい気持ちになる。
「おいで。」
と自分の横をポンポンと叩いて、布団を開く。
例え奥さんがいても、陽一は、今は私のものだ。
せっかくの時間を楽しまなきゃ。
そう思い直して、笑顔を作って、彼の横に滑り込む。
陽一が、そっと抱きしめてくれて、明美に優しくキスをする。
「はぁ…ん…んぁぁ。」
胸を優しく揉み上げられて、つい吐息がもれてしまう。
さっきイッたばかりなのに、もう私の中心は、うずき始めているのだ。
「陽一、早く…ほしい。」
思わず、ねだってしまう。
「ねぇ、やっぱ“主任”って呼んで。」
「え?」
「ダメ?」
「いいけど…」
主任呼びも良いんだけれど、なんか背徳的というか、距離感を感じてしまう。
乳首を噛むように胸をなぶられる。
カリカリとされるその甘噛みが気持ちよくて、あそこから、ジュワッっと液があふれるのが自分でもわかる。
「じゃぁ依田、いれるよ。」
「は、はい。」
…なぜか敬語になってしまう。
「…はぁ、依田むちゃくちゃスムーズに入るね。」
「だって、主任が…」
「ん?俺が?」
「主任が、気持ちよくさせるから…」
「んん…、でもすげー絞めてくるじゃん。」
「そのくらい、主任のこと束縛したいんです。」
「えぇ?でもこんな濡れてたら、出し入れ簡単だよ?」
そう言って、律動が早くなる。
あぁ、何だろう?どうしてこんないいの?
明美は陽一にギュっとしがみつく。
「うわ、そんな腰使ってきたら、俺やばいよ。」
「だ、だって、とまらないの…すごくいいし、あぁもう、離したくない。」
「依田は、いつも全身全霊だもんな。」
「主任のためだから、頑張れるんです…」
イきたい。
けど、イったら終わってしまう。
でも、いつまでもこのままじゃいられない。
なんでよ…。
“主任”なんて呼んだら、自分が部下である現実を思い知ってしまう。
そして、明美は初めて思った。
奥さんのところに彼を帰したくない。
「やべぇ、もうイキそう。」
彼の存在を、中に大きく感じる。
「明美、イくよ、いい?」
そう言って彼の動きは速くなる。
「いや、イかないで…、あん、このままつながって…」
「ご、ごめん。」
「あっ!あん、あぁ…」
私もはじけたように、果ててしまった。
***
「明美。」
朝日のまぶしさに、彼のシルエットだけ確認する。
「帰るよ。」
チュっとおでこにキスをされる。
「また月曜に会社でね。」
私は裸のまま、ベットから起き上がれなかった。スーツを着た彼が、アパートのドアを出ていく姿を、ただ見送った。
彼に愛されたままの跡が残る体に、少しずつ朝日がさしてくる。
***
「おはようございまーす。」
月曜日の朝。
めずらしく他部署の先輩がいた。
「やっぱりそうっぽい?」
「あぁ、うん多分。」
「なんだ、あんたたちもうだめなのかと思ってた。」
「…あぁ、俺も意外っていうか…」
「なんだよ、しっかり自覚持ちなさいよ!」
先輩は主任の肩をたたく。
「おはようございます。主任なんかあったんですか?」
さりげなく聞きに行く。
主任はなぜか視線を逸らす。
「あぁ、まだ公にはシーなんだけど、彼の奥さんおめでたかもって話。」
え…?
一瞬で目の前が真っ暗になった。
わかってる。わかってた。
でも、現実を突きつけられると…。
私は、瞼が熱くなるのを感じていた。
「そ、そうなんですね。」
おめでとう…、とは素直に言えなかった。
「まぁ、なんだかんだ、やることやってたんじゃん。」
と明るく笑う先輩。
私も周りに合わせて曖昧に笑い、その場をやり過ごした。
…はじめからわかってた。
この恋の先に幸せなんてないこと。
私との関係は、おひさまの陰にあること。
でも、好きという気持ちは消せない。
ねぇ、これからも、身体だけでも、つながっていけるよね?
たとえ結ばれることがなくても…。
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