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痴漢

初めての痴漢

私は、見られるだとか、放置されるとか、ちょっと普通とは違うことに、性的快感を覚えてしまう。自分でもいつからそれに目覚めたのか、そもそも初めからそういった癖だったのかはわからないのだが……とにかくそういうものが好きなのだ。
とはいえ、オープンにはしにくく、今まで付き合ってきた人にもそのことは隠してきた。それだからか、行為に関しては満足できないことがほとんどだった。もっぱら最近は、漫画や小説で己の妄想を掻き立て満たしていたくらいだ。
今日も夜な夜な漫画サイトを漁っていると、広告で見つけた。『あなたの欲、満たします。』のうたい文句。怪しすぎるとも思ったが、不思議なもので、ついついクリックしてしまう…フ◯ッシング系のサイトだったら終わりだとも思ったけれど、繋がった先は掲示板らしかった。

「……スワッピングに乱交……どういうこと?」

すいすいっと画面に指を滑らせると、そこには特殊性癖と呼ばれるであろう物の名前がずらずらと羅列されていた。気になった“痴漢”のページをポチっと開く。

ー◯△線 *$駅15時発の電車に乗ります。服装は黒いジャケットにタイトスカート、猫のトートバックを持っていきます。

―36歳男 声かけてからの方がいいですか?それともいきなり触っていい?

―いきなりで大丈夫です。四両目の進行方向を前として、前の方にいます。よろしくおねがいします。

「……へぇ。」

少し遡ると、いろんな路線、いろんな内容が書かれていた。こんなものがあったとは。調べながらドキドキと高まる高揚感。世の中の特殊性癖を持つ人たちは、こう言うので発散するのか。と言う気持ちと、もしかしたら今まで自分が乗っていた電車で、こういったことが行われていたかもしれないという事実に、たまらなく興奮した。いろんなスレッドを漁る。気が付くと私は、“痴漢スレッド”に書き込みをしていた。

―□*線 8時白いパフスリーブのシャツに黒いスカート 行ける方いますか?

―男、メガネスーツ身長高め、いけます。何かもう一つ特徴ください。

特徴か。確かに、似たり寄ったりの格好だものな。心の中でそう呟くと「五両目の真ん中の方、左手のドア前に立ちます。黒のバケットハットかぶって。」と付け加えた。明日は平日だが仕事は休みだった。まだ流石に人気の少ない時間に行動を起こすのは気が引けるので、通勤ラッシュの時間帯に合わせて依頼できるのは、チャンスと言えばチャンスだった。通勤ラッシュで人が多すぎて出会えない可能性はあるけれど、反対に、人混みに紛れられると思った。
布団に入っても高揚感からか、なかなか寝付けなかった。羊を数えれば眠れるなんて、先代の知恵はあるけど、そんなもの役に立たない。自らに催眠をかけるように「寝る」を念じながら、気が付けば眠りについていた。

朝、テテテテン、という機械音で起こされた。なんだかんだで寝れた。顔を洗い、普段は朝シャワーなんて夜お風呂に入り損ねた日以外浴びないのに、なんだか急にソワソワしてきて、シャワーを浴びる。顔も知らない人に私は今日…、今から、痴漢されに行く。気合い入れてくたびれていない下着を身につけ、ハットを被る。スーツ姿のOLやサラリーマン、学生達に紛れて混み合う電車に乗り込む。混み具合は、隣の人と引っ付きあってしまうほどでは無かった。ややオフピークに差し掛かった時間だったか。あと二駅、自分が待つ方がドキドキが高まって興奮すると思い、少し先にした。心底自分の性癖って歪んでいるな、なんて思いながら興奮して、ちょっと息が荒くなる。落ち着け私。変質者みたいじゃん。

『―は、□*、□*駅、右側のドアが開きます。ご注意ください。』

きた。気持ちを落ち着かせているうちに、約束の場所に着いたようだ。キョロキョロ探したい気持ちを抑えて、顔をドアの方に向け立つ。ドアが開いて、人が傾れ込むように入ってくる。思わず柱を握る手に力が籠る。…ドアが閉まった。顔はそのままに、目線を動かす。スーツ、メガネ、身長高め、脳内の情報を引っ張り出す。スーツは何人かいるが……と思ったその時、後ろから声がする。「……掲示板の方ですね?」少し高めの少年か青年かくらいの声だった。自分が言うのもなんだけど、最近の若い子ってちょっと歪んでるの?と思いつつ。声は出せないから、コクコクと頷いた。

「合っててよかったです。……もしそれは、ってことがあったら左足を踏んでください。止めます。」

話せない私は、再びコクンと頷く。手が私に触れる。見えない、どんな手をしているんだろう。背も高いし大きい手。でもゴツゴツした感じはなくて、男性にしては細めで、ナカをイジられたら奥深くまできそうだな…なんて事を考える。裏ももをすりすり撫であげていた手が、僅かにお尻に触れる。思わずピクリと震えてしまう。さらに、お尻の下の方だけをむにむにと揉まれる。指が食い込んでは、戻る。それを繰り返しながら、徐々に強弱がつけられていく。あぁ、今この人はどんな表情をしているんだろう。そもそも顔なんて知らないけど。

「んふ……。」

「……感じちゃってるんですか。ダメですよ、声で周りにばれますよ。」

そうだ、ここは電車の中で、当たり前だけれど、周りには多くの人がいる。うっかり自分の世界に入り込んでしまっていた。その事実に、一気にぶわぁっと顔が赤くなる。

「今もう僕の指だけにしか意識向いてなかったですよね?」

図星を言い当てられて、興奮がさらに高まる。この人、慣れてる…言葉攻めとかすごい好きそう。もちろん私は言葉攻めされるのは好き。そのせいで、じわっと下着が湿ったのを感じて、さらに恥ずかしくなった。恥ずかしいけど、たまらなく気持ちいい。己の変態具合に、笑みが溢れそうになる。新しい刺激はこうも、己の新境地を見出せるのか。私は与えられる臀部への刺激を感じながら、またしても自分の世界に入り込む。声だけは出さないように。

「……結構いけますね、もう少し踏み込みますね?」

そういうとお尻を揉みしだいていた手が前に回ってくる。花芽の上をフニフニして、その下まで降りてくる。割れ目あたりをすりすり撫であげる。ピク、と僅かに体が震え、またあそこが濡れるのが分かる。気合い入れて身に纏った下着が、自分の愛液まみれだ。すりすり優しく撫でるだけだったそれが、くにっとパンツごと中に押しこまれる。「ぇ?」と思わず声が出る。「しぃ。」とたしなめられると、浅いところで繰り返される。こんなことまでされるの⁉︎と思いつつも、嫌ではなかった。むしろワクワクが止まらなくて、もっと、と思ってしまった。

「……湿ってる。」

「わかるの。」

「こんだけしっとりしてたら流石に。」

そう言いながらも、なお指を食い込ませてくる。そんなにされたら、湿り切ったパンツはもはや意味をなしてない。音が聞こえそうで、はずかしくなった。「これあってもなくても変わらないね。」少し笑ったように彼は言うと、パンツの中に直接手を突っ込んできた。にゅぷにゅぷになったパンツの中で、僅かに膨らんだ花芽をぐりぃっと刺激される。

「ん゛ん⁉︎」

間一髪己の手で口を塞ぎ、嬌声が上がるのは防ぐことができたが、それでも大きな声が出てしまった。幸いにも同時にカーブにさしかかり、電車がブレーキをかけたことで、キーーーーっと大きな音が鳴り、声をかき消すことができた。

「……ふふ、間一髪でしたね。」

「ちょ、いきなり強い刺激なんかされたら……っ!」

「すいません、どんなことしても受け入れてくれるので、つい楽しくなってしまって。」

需要と供給の一致。まさしく今の私たちには、その言葉がピッタリだった。パンツから手を抜き取られる。ポッケに忍ばせていたのだろうハンカチで、彼は手の愛液を拭い始める。

「え、ちょ、ハンカチ汚れ……」

「これ、今日の晩の僕の1人遊びのおかずにしますね。」

とんでもない発言に恥ずかしくなる。そしてまた濡れる。自分が果たしておかずにされる日が来ようなんて。私は顔も知らない人のおかずになる。「また会いましょう。」そう言って彼は、私のジャケットのポケットに何かを忍ばせる。
その次の駅で、彼は下車した。私はさらに次の駅で下車し、駅のトイレで下着を買い、トイレに駆け込んだ。想像を遥かに超えていたレベルに、替えを用意していなかった。しかし、あまりに濡れてしまい、ぐっしょりとした下着を履き続けることが気持ち悪かった。
手を洗い、ハンカチを取り出す。その時ハンカチではない何かに触れた。さっき渡されたものだ。小さなポストカードに連絡先が書かれている。私は連絡するかどうか迷った。でも別に、セフレが欲しいわけではない。己の欲を満たして欲しいだけで、そこに行為が必要かと言われると、今はこの“痴漢”をもっと味わいたい。そう思った私は貰ったカードをトイレのゴミ箱に捨てた。まぁ掲示板を使っている限り、また会うかもしれないけど。彼のことは、手の感じと声色くらいしか覚えていない。でもそれでいいのだ、初めての痴漢は、自分が特定の誰でもない相手に好き勝手される事が、性癖に刺さる事に気づかせてくれた。とりあえずはそれで満足だった。

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このは

このはです。素人ですが、どうぞよろしくお願いします。

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