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今夜はアプリで相手を探す
「またそれ?いい加減にしてよ。」
なんて言えたらいいのに。
「そっか、それは仕方ないよね……頑張ってね。」
いつもの断り文句、聞き飽きたセリフにうんざりして、恋人との通話を切った。
恋人とうまくいかなくなって約半年、ずっと同じことを言わ列付け、夜のお誘いもデートも断られている。
それに気が付かないほど、私はばかだと思われてるんだろうか。
さすがに何回も同じ言葉を言われたら、誰だって気がつくだろう、私はそんなにばかじゃない。
そんな恋人の、私をばかにした行動にうんざりしている姿を見ていた友人たちは、他の人にしたらいいのに…と言ってくれた。その友人たちに勧められた出会い系のマッチングアプリを、スマートフォンにインストールしてみることにした。
「年齢と性別と……最後にセックスした時期?最近のアプリってこんなのまで入れるの!?」
さすがに誰にでも(といっても登録した人だけだろうが)見られるアプリ内で、性事情まで赤裸々に入力するのは、すごく恥ずかしい、とは思った。
……けど、これがないと恋人のばかにした行動と態度に対して反抗できない、と考えていた時には、すでに、「半年前」と正直にと入力していた。
登録完了してからしばらくして、二件の連絡が入る。
両方ともプロフィールを見比べても同じような内容の男性で、強いて少し違う点を言うとしたら、記載されている男性器のサイズが数センチほど違うくらいだ。
正直男性器のサイズを判断材料にはしにくくて、とりあえず勢いのまま、その連絡をくれた二人と会うことにした。
一人目……これは大ハズレだ。
会ってすぐに、副業だの投資信託だのの話しかしなくて、出会いを求めていた私には合わなかった。
その人とはすぐに別れて、二人目の人と会うための待ち合わせ場所に向かった。
「はじめまして」
そう言ってきた二人目の彼は、めがねが良く似合う一見何の変哲もない普通の男性で、こんな性事情や男性器のサイズを記載するような、恥ずかしいマッチングアプリを使ってる人には全然見えなかった。
「は、はじめまして……」
「はは、そんなに緊張しなくていいよ……このアプリ使うの初めてでしょ?」
わかるんだよね、と言う男性は「ノムラ」と名乗った。
私は咄嗟に友人の名前でもある「カンザキ」と名乗った。
「カンザキさん、立ち話もなんですし、軽くお茶でも飲みませんか?」
近くにカフェがあるんだ、と言うノムラの言葉に誘われて、二人はカフェへと向かった。
カフェの外観は少し寂れているものの、店内は静かでとてもいい雰囲気の場所だった。
私はアイスコーヒー、ノムラはアイスティーを頼んで(店内の客は私たちしかいないので、店内の雰囲気を壊さないためにも)ぽつぽつと小さい声で、世間話を始める。
ノムラも私と同じで恋人とうまくいっておらず、友人に誘われてマッチングアプリを始めたらしい。
私と経緯が似すぎていて、とても親近感がわいた。そして、この後のホテルもためらうことなく了承した。
ノムラと行ったホテルは安いビジネスホテルで、さすがにお互い恋人がいるのにラブホテルに行く勇気はなかったのだ。
それに、お互い緊張しながら交互にシャワーを浴びて、ベッドに行く。
「カンザキさんすみません……実は僕、女の人との経験回数がそんなになくて……」
「……あはは、それは私もです、同じですね。」
お互い童貞処女同士か、と言いたくなるくらいの緊張っぷりに思わず笑ってしまう。
くすくすと笑いあいながら、衣服も下着もない状態で、勢いのまま抱き合った。
裸体になったノムラは意外と筋肉質で、しっかりと毎日トレーニングをして鍛えているらしい。
意外な趣味だと驚いていると、ジムトレーナーの仕事をしているからだと教えてくれた。
そのままたくましい腕に抱かれ、恋人に小さいとからかわれる胸を優しく揉まれて、性感帯を刺激される。
その手はまったく慣れた様子ではないから、さらに愛おしく感じる。何度も乳首を遠慮なく弄りまわすその手に快感を覚えようと、私は必死になっていた。
「あ、そこ……」
その手に翻弄されたフリをして、感じている演技をしながら、もどかしさを隠す。
そこから手が下に下がり、ノムラの手はいきなり、私の股間に触れてきた。
いきなりそこに触れるの? と思ったんだけど、ノムラはセックスに不慣れというところと、私もそんなに回数が多いわけではないし、わがままを言えるほどの経験値もないものだからと、諦めるしかなかった。
だから、どうしても無理! ってなった時以外は、口出ししないようにしようと思って、ノムラの様子を見ていた。すると、いきなりじゅるじゅると音を立てて私の秘部を啜り始めた。
「な、ぁあっ……!?」
なんで急に啜って舌で舐めるの!? と言いたくなったけど、我慢した。
だって、道具を使ったオナニーじゃ、絶対に感じられないものだったし、恋人は絶対にしてこない、初めての快感だし……これはこれで気持ちいいかもしれない。
しばらく啜られつつ舐められて、ノムラは口を離して一旦私から離れた。そして、ごそごそと脱ぎ捨てた服のポケットから、コンドームを取り出し、封を切って、勃起したモノに取り付けた。
「お、っきいです、ね……?」
「そうですかね?」
「だって、長さは書いてあっても太さは書いてなかったじゃないです、かっ……!」
いきなりずっぷりと差し込まれた男根は、とっても太くて熱い。
最大限まで男根で広げられた秘部は、みちみちと音を立てていて痛いし怖かったけれど、その痛みよりも、快楽の方が大きかった。
「ふぁ、ぁあっ……っん、ぅ!」
「カンザキさん、どう、ですかっ……!」
「お、っき、ぃ、しっ!きもち、い、いっ……!」
「よかった、もっと、きもちよくなって、くださいっ!」
その言葉と同時に、ノムラはぐぽぐぽと遠慮のない出し入れを繰り返し始めて、こすれる内側が熱を持って「気持ちいい」の一言で頭がいっぱいになる。
「ぁ、あぁっ!」
声だって、もっとここをこすってとか言いたかったのに、気持ちよさのあまり、母音しか出ない。なにより、太いそれが乱暴に出入りするのが、たまらなく良かった。
だって、気持ちよくってたまらないし……恋人のものはノムラのよりも細っこくて、ここまで広げられないから。
「の、むらさんっ!ら、らめっ!もぉ、いってるぅっ!いって、るからぁっ!」
「僕、は、まだ、いってないので、」
もう少し、我慢してくださいと言ったノムラは、がつがつと遠慮なく腰を揺らして私を責め立ててくる。
「ひ、ぁ、あ、あっ……!!」
ごんごんと最奥を突かれ、子宮がきゅんと疼く。
完全にノムラの雌になりたいと、身体は訴えている。でも、私とノムラには、結婚を前提に付き合っている恋人がいるおだ。
この矛盾と不貞にまた興奮してしまって、何度もイッてしまう。
「出します、よっ……!」
「あ~……っ、ぁあっ……!」
どくどくとコンドーム越しに射精されている感覚がして、たまらず声が漏れてしまう。
こんなの知らない…こんな肉欲に任せたセックスなんて、今までしたことがない。
「どう、でした……?」
「す、すごか、った……です……!」
やみつきになりそうなそれに夢中になってしまう人がいるのも理解できる、こんなの夢中にならない方がおかしい。
「カンザキさんがよければ、もう一回シませんか?」
体力底なしなの!? と言いたくなるくらい、ノムラはさっき射精したはずなのに、ガチガチに勃起させている。普通ならここで断って帰るところだろう。
「……はい」
私はその「もう一回」に、すぐに頷いてしまった。
二回目は背後から、もっと乱暴に腰を振ってほしいと頼んだ。
「ぁぅ、あ、ぁ、あっ……!」
ぱんぱんと一定のリズムで腰を打ち付けられて、子宮の入口にぶつかってるんじゃないかと思うくらいの快感に、頭が蕩けてしまう。
いっそのこと、セックスフレンドだと割り切ってしまえばいいかもしれない、なんて考えるくらいは、肉欲だけぶつける初めてなセックスに、溺れている。
「は、っく、ぅ……!」
ノムラも気持ちいいのか、声を漏らしてびくびくと、ナカに入っている男根を震わせている。
お互い気持ちよくなるならいいことだと思う。むしろ、お互い恋人がいて、性生活に不満があるからこんなことをしているのだから。浮気だと怒られても言い訳ができるし、お互いの欲を発散させるだけの関係だから、浮気じゃないって言えるはず。
「ぁ、すご、すごいぃいっ……!」
ぐぽんと子宮を叩かれながらの責め立て方はたまらなく気持ちいいが、何度もするのは体力が持たない。
とても疲れてしまうし、なにより次の日の仕事に、支障をきたしてしまった。
……次の日が休みの日に相手をするなら問題がないこの人は、保留にしておいて、別の人を探そうと思った。
休んだその日に恋人に心配されつつマッチングアプリのプロフィールを整えて、男性側からも見つけやすくしてから、次の予定を立てる。
次は体力に自信がないと、自らプロフィールに書いている男性、この男性はベッドに行く前の話がつまらなくって、やめた。
その次の男性は、会話が面白かったけどセックス下手、なかなか満足のいく男性に当たらないまま、何度かノムラと会っていた。
ノムラも私と同じで、何度か他の女性に会っていたらしい。けれど、なかなかいい相手に当たらなかったそうだ。
「やっぱりカンザキさんがよかったなってなってしまうんですよね。」
「はは、妥協してしまいますよね。」
ノムラは妥協ではないですよ、と笑うけど、私はこの関係を妥協だと感じている。
だからこそ私はノムラ以外の他の人を見つけたいと思っているのだけど、やっぱり上手くいかない。
それだからって、私は妥協したくなかった。だから私は今夜も、アプリで相手を探し始める。
連絡して、会って、を続けていたら、ノムラと同じくらい、自分の気分や相性のいい相手も数人見つけられた。
数人は確実に選べるような状況を作り上げた状態で、私はあえて「今夜は」アプリで相手を探す……あえて恋人とは違う、そして不貞という刺激が、欲しくてたまらなくなってしまったのだ。
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