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「ありがとうございました」

「こ、こちらこそ…」

私は相原ののか。

小学校の教師をしている。

今は美容室の帰り。

ちょっと前まではこんなおしゃれな美容室でキラキラした人にカットしてもらうなんて考えもしなかった。

しかもカットだけでなくヘアケアまでお願いしている。

ここに通っているのは美容師の方たちもカットの腕も気に入っているから…。

だけではない。

最近マッチングアプリで会った 小山内大和(おさないやまと)さんがいるから…。

プロフィール写真を見た時からひとめぼれだった。

茶髪でジャ〇ーズにいそうなさわやかさとわんこ系のかわいらしさ。

その見た目に心臓が撃ち抜かれた。

でも私とは違う世界の人のように思えて、DMするまでほんとに悩んだ。

1週間文章を打っては消して売っては消して…。

ようやく決めた一文。

『良ければお話ししませんか?』

国語の教師とは思えない稚拙な一言に自分でも絶望した。

それなのにすぐにリプをくれた小山内さんにさらにときめいてしまった。

『ののかちゃんの髪の毛って黒くてきれいだね』

『ののかちゃんて面白いこと言うね』

『ののかちゃんの生徒だったら僕ももっと勉強したかも(笑)』
とにかく私をほめてくれる。

そしてリプも早い。

リプが遅くなってもその理由を言って真摯に謝ってくれる。

大学時代に彼氏がいたけどこんなにマメじゃなくて、小山内さんのことどんどん好きになってしまう。

『ねぇよかったら直接会ってみない?』

メッセージのやり取りをして1か月。

願ってもないお誘いを受ける。

嬉しい。でもどうしよう!

どんな服装で行けばいいのか?どんな髪型にしようか?

会いたいけど問題が山積みだ。

でもこれを断ったら絶対後悔する!

そう思って思い切ってOKする。

『はい。私も小山内さんにお会いしたいです』

『ふふ…。じゃ都合のいい日あとで教えて』

そうは言ったもののお互いの時間が合わなくて、小山内さんがある提案をしてくれた。

『よし、じゃあさ僕がトリートメントしてあげるからお店おいでよ。もちろんサービスで!』

『え?で、でも悪いです。お金は払います』

『いいよいいよ。新しいトリートメントのモニターってことで(笑)』

『でも…』

『その代わりちゃんと仕上がりのアンケート答えてね』

ちょっと強引に誘われてお店に行くことになった。

そして施術当日。

「うわ…」

お店の前に立って躊躇してしまう。

よく雑誌やテレビで見るとってもキラキラした美容室が目の前にある。

「よし…!」

小さく気合を入れてお店のドアの前に立つ。

自動ドアが開いて店員さんたちの視線を感じる。

「「いらっしゃいませ」」

何人かの声で出迎えられる。

「いらっしゃいませ。ご予約のお名前いただいてよろしいですか?」

受付にいたかわいいお姉さんに声をかけられる。

「えっと…相原…相原ののかです」

「相原様ですね」

ニコッと笑ってカウンターに視線を落とす。

「あ、ののかちゃん!」

ふと私の後ろから声が聞こえた。

「あ、大和のお知り合い?」

受付のお姉さんは「失礼しました」とまた笑顔を見せてくれた。

「うん。ありがとう」

小山内さんは受付の人にそう言って私に近づいた。

「来てくれてありがとう」

そう言ってほほ笑む小山内さんの実物はプロフ写真とは比べ物にならないほどまぶしかった。

「い、いえこちらこそ…」

「うわぁ、実際見たらほんときれいだね」

“きれい”そのワードに反応してしまう。

でもそれは髪の毛のこと…。

わかっていてもうれしい。

「じゃ、さっそくいい?」

無邪気でかわいい笑顔でシャンプーのスペースに連れていかれる。

「初めて会うのにこんな感じでごめんね。でもこの方がたくさん話しできるし」

確かに普通に話すより美容師との会話と思ったほうが話しやすいかも。

「まずシャンプーからね」

そう言って静かに椅子を倒して声をかけながらペーパータオルを顔に掛けたりシャワーをかけたりしてくれた。

なんかすごい心地いい。

私の髪や頭皮をなでる小山内さんの指の感触は今まで美容室で味わったことのない心地よさだった。

「どう?気持ちいい?」

「あ、はい」

私の返事を聞いてフフッと笑う。

「じゃ、次はトリートメントね。」

そう言って私の髪に再び小山内さんの指があてがわれる。

マッサージするように優しくゆっくりと撫でられる。

「香りどう?」

「あ、えっと、爽やかな香りで気持ちもスッキリしますね」

「ほんと?ののかちゃんはこういうのと甘めのとどっちが好きかな?」

「うーん、どっちも捨てがたいですね。でも夏はこういうさわやかなのがいいかも」

「そっかぁシーンに合わせて使い分けるのもいいかもね」

小山内さんの弾むような声が耳に心地いい。

ここに来てからずっと悦を感じている気がする。

トリートメントしたりドライヤーする間も小山内さんとは楽しく会話できた。

なんてことない世間話なんだけど私を飽きさせることがない。

ちょっと尊敬すら覚えてしまう。

「はい、お疲れ様」

キューティクルすご!

きれいにトリートメントされた紙を鏡で見て驚いた。

小山内さんが私の髪を根元から持ち上げてその手を毛先に滑らせていく。

さらさらさらさら…。

小山内さんの指からこぼれ落ちる私の髪は格段にきれいになっていた。

「どう?」

「す、すごくいい感じです」

そう返すとにっこり笑ってくれた。

こんな笑顔を向けられたら瞬殺されてしまう。

それにしても店員さんはみんなおしゃれでかわいいし、お客様にも女性が多い。

小山内さんは出会いに困らないんじゃないかなぁ。

そんな疑問がわいてしまう。

「ほんとにお代いいんですか?」

「うん。アンケートにも答えてもらったし」

「あんな簡単な質問答えただけなのに…」

「え?もっといろいろ聞いたほうがよかった?たとえばぁ3サイズとか!」

「…なっ!」

思わず赤面してしまう私をおかしそうに見つめる小山内さん。

「冗談、また連絡するね」

それは美容師として?それとも個人的に?

そんなこと聞けるわけもなくその日はお店を後にした。

翌日—。

女性だけでなく男性の先生たちにも髪の艶は好評だった。

『偶然モニターで声かけられて』

なんてちょっと嘘ついちゃったけど…。

小山内さんのところに行ってほしいような、小山内さんの存在を知られたくないような…。

何となく複雑な気持ちになった。

それは、小山内さんのことが『好き』だから。

それから月一でカットやトリートメントに通うようになった。

もちろんしっかりお代は払っている。

小山内さんの指に髪をいじられるのはとても気持ちよかった。

恥ずかしいけどなんだかちょっと官能的な気持ちになるっていうか。

髪を触られるとすごくドキドキした。

夏休みに入って少し時間に余裕ができた。

定時で帰れたり有給とったりできるからね。

そしてようやく念願のデートができるようになった。

小山内さんの定休日に合わせて有休をとる。

待ち合わせ場所につくと小山内さんはもう来ていた。

「お、お待たせしました」

「いいえ」

「だいぶ待ちました?」

「うーん。実は楽しみすぎて早く来すぎちゃったんだよね」

キューン!

世間でよくゆわれる3Bの破壊力。

この笑顔でこんなセリフ言われたらチャラいとわかっていてもちょろい女になってしまう。

小山内さんのエスコートは完璧で映画もランチもほんとに楽しい。

あっという間に一日が過ぎてしまう。

「あぁ~あ。一日早いね」

「はい…」

そう言って視線を落とす私を小山内さんはじっと見つめる。

「もう少し一緒にいたいって思うのは僕だけ?」

真剣な顔で言われたらついつい縋りつきたくなる。

「私も!私もです…」

勢いよく言ったことに恥ずかしくなって最後は声が小さくなってしまう。

「ふふ…。うれし」

そう言って私の前髪をかき上げてくる。

「じゃあさ。僕んち来ない?」

え?いきなり?

これって断ったら気まずいけど、オッケーしたら軽い女って思われるかな?

「いや?」

戸惑っている私の顔を覗き込んでくる小山内さん。

「い、いやじゃないです」

「ふふ…。よかった。じゃいこっか?」

こんな感じであれよあれよと小山内さんの住むマンションについてきてしまった。

「疲れたでしょ?良かったらシャワーしておいでよ」

突然の提案に驚きすぎてしまう。
さすがにそれは…。

「警戒してる?」

こくこくとうなずく。

「僕と“そういうこと”になるのはいやってこと?」

かなり直球で聞かれて戸惑ってしまう。

確かに男の家にのこのこついてきて『そんなつもりじゃありませんでした』では済まされないのはわかる。

でも、やっぱりちょっと…。

「もうかなりお店で話してるしメッセージのやり取りもあるよね?僕は初めてのデートは“それ”も込みかなって思ってたよ」

急に男の顔になる。

可愛くてニコニコしているだけじゃないんだ、なんて思ってしまう。

「えっと…あの」

「ん?」

「えと…」

「アプリで会ってこういうことするの初めて?」

言葉が出なくてただうなずく。

「そっか…、じゃどうしよう?」

今までいろいろひっぱってくれてたのに、急に決定権をゆだねられてどうしていいかわからない。

すると小山内さんは私のそばに来てそっと髪の毛に触れる。

一つに束ねた髪をさっと解(と)く。

「僕のこと嫌いになった?」

そう聞かれて首を横に振る。

「そっか…よかった」

「…」
「僕シャワーしてくるからその間にののかちゃんの気持ち決めといて」

そう耳元でささやかれて心臓は壊れそうなほど高速稼働する。

リビングで立ち尽くしているとすぐにシャワーの音が聞こえてきた。

どうしよう。

冷静に考えようとするのにできない。

だってこの部屋は小山内さんであふれている。

部屋の雰囲気も香りも小山内さんに囲まれているみたい。

好きならいいよね?

そう自分に言い聞かせて覚悟を決めたころ。

小山内さんがTシャツとハーパン姿でリビングに戻ってきた。

「ののかちゃんどうする?」

「シャ、シャワーかしてください」

そういうといつものかわいい笑顔で

「どうぞ」

とお風呂に案内してくれた。

「どうせなんも持ってないだろうから」

そう言ってコンビニの袋を渡された。

「これ使って」

それは下着だった。

いつの間に!

さっきお酒をかった時?

あっけにとられてしまう。

「僕準備いいからさ」

ちょっと怖くなってしまったけどありがたくちょうだいした。

初めてじゃない。

でもやっぱり体を念入りにきれいにする。

シャンプーを借りると小山内さんの香りがした。

なんだかちょっとうれしくなる。

たったこれだけの事なのに同じ香りをまとえるっていうだけで幸せ。

お風呂をあがるとTシャツと短パンが用意されていた。

少しぶかぶかだけど短パンのひもをめーいっぱい絞って小山内さんの元へ戻る。

「同じにおいだね」

私を抱きしめてそうささやく。

少し身構えて固くなってしまう。

チュ—。

首筋にやわらかい感触。

「可愛い」

体がぴく!っとなった私にそう声をかけてくれる。

ペロッと首筋をなめあげて満足そうに笑う小山内さん。

そのままソファーに押さえつけられる。

「…あっ!」

Tシャツがめくれて何もつけていない胸があらわになる。

「意外とおっきいんだね」

妖艶な表情を浮かべて私に覆いかぶさる。

そのまま突起を口に含まれて

「あ…はぁ…」

と切ない声が漏れてしまう。

「ここ防音しっかりしてるからいっぱい声出して大丈夫だよ」

私の体に手を這わせながら小山内さんが優しく微笑む。

こういうこと慣れてるのかな?

見た目で判断したらいけないけどそれでも小山内さんは女の人になれていそうだし…。

私のエッチで満足できるかな?

くらべられたりしたらいやだな…。

いろいろ頭の中をぐるぐるしている。

「なんか考えてるの?もっと僕に集中してよ」

「ご、ごめんなさい」

「ふ…、いいよもうすぐ何も考えられなくなるから」

そう言ってリボン結びされた私の短パンの紐をほどいて下着もろともはぎ取られる。

「いいねそそる」

普段私の髪をケアしてくれている細くて長い指が私の足の間に入っていく。

「いやん…ん」

「怖い?」

「あ…えっと」

戸惑っているうちに小山内さんの指が私の蜜口をなぞる。

何度か往復していると—

ぴちゃ

と卑猥な水音が響く。

「良くなってきたんだねもっと溺れさせて」

そう言って中に入っていく小山内さんの指。

その指に刺激されただけでどうにかなってしまいそう。

でも

「僕のもかわいがってくれない?」

そう言って私の目の前に小山内さんの肉棒が差し出される。

「したことない?歯立てないでね」

そう言って私の唇にそっとそれをあてがう。

「ほら、あーんして」

子供みたいに扱われて恥ずかしくなる。

ぐっと押し付けられるソレにあらがえずに口を開いてくわえる。

「舌を使って舐めながらしゃぶって」

けしておいしいとは言えないソレ。

でも時折漏れる小山内さんの吐息に興奮してきた私は必死でしゃぶりつく。

「いいよ。きもちいい」

小山内さんの腰が揺れる。

「あぁもう出ちゃいそう。いいよね?」

そう言ったかと思うと自ら腰を動かして私の口の中を出し入れする。

「うっ!」

小山内さんの声と同時に口の中に何とも言えない味覚が広がる。

「出していいよ」

そう言って私の上からどいてくれる。

私は流しに行って口の中の液体を吐き出す。

口をゆすいで戻ると四つん這いにされる。

「じゃ次はののかの中に入れるね」

素早くゴムをつけて私の腰を掴む。

そのまま私の入り口に小山内さんの猛りを擦り付けてタイミングを計っているみたい。

「すごくあふれてきた。じゃ挿入(い)れるよ」

私の返事を待たずに突き刺される。

「はうっ!」

いきなり突っ込まれた質量に背中がのけぞる。

「あぁののかの中最高」

初めからすごい速さでピストンが繰り返される。

翻弄されるように体は揺さぶられ快楽に酔いしれてしまう。

「ののかの髪さらさら揺れてきれいだね」

「あぁん…あぁ」

ほめられてうれしいのに喘ぎ声しか出ない。

「いいよほらもっと感じて僕にだけ集中して」

息を切らしながらも私の体をなめたり触ったりしている。

さらに奥まで入ってきて私のいいところをぐりぐりと責めてくる。

「あぁそんな…それいや…だめぇ」

もう頭は真っ白だ。

ほんとに小山内さんのことしか考えられない。

「ほらもう出すよ。ののかもイって」

そんな強引な要求にも答えたくなってしまう。

一生懸命彼の体を感じて絶頂を探る。

「うっ!もう!いくよ!」

そう言って小山内さんは私の中でゴム越しに果てた。

初めてしてからも変わらずメッセージをくれる。

それに仕事終わりに会うことも…。

でも会ったらすぐに体を求められた。

気になるのは一つ—。

私たちの関係…。

小山内さんは『好き』と言わない。

小山内さんは口にキスはしない。

小山内さんは会ったらセックスがメイン。

何ならセックスしかしない。

これって遊ばれてる?

そう思うけどメッセージは変わらずもらえる。

『早く会いたいな』

『今度ヘアアレンジさせて』

『部屋にののかのにおいがする。恋しいよ』

そう言われると彼のために時間を作ってしまう。

体も彼を求めてしまう。

ある日行為の最中に思わず口にしてしまう。

「ねぇ…私って小山内さんの何?」

「え?」

「最近はこういうことばっかりで…」

「ん?こんなに一緒にいるのに不安なの?」

「だって…こんな関係…」

「僕との行為は不満?」

「そうじゃないけど…」

「僕は幸せだよののかとくっついていられて」

そう言って私の中で甘く暴れまわる小山内さん。

「この関係で十分だよ」

そう甘くささやかれて私はまた快楽の波にのまれて小山内さんの中に堕ちていく…。

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ichigomilk

つたない文章ですが、みなさんの心に届きますように!どうぞよろしくお願いします!

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