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BL

抱きしめて、離さないで

始まることは決してない関係だ。いつか絶対諦めて去らなければならないと自分に言い聞かせ続けて早幾年。

「くそぉーまたフラれた……」

目の前で中ジョッキを片手にテーブルに突っ伏す男の頭に手を伸ばしかけ……理一はまた手を戻した。

「洋平にしちゃ続いた方じゃね?」

お通しで出されたキムチを好きでもないのにつまみながら平静を装ってそう答える。

「3ヶ月だぜ?続いたって言えるか?」

恨めしそうに自分をみつめる洋平の視線をやんわりと受け止め、理一は手にしていたハイボールを一口飲む。

「で、原因は何なの?」
「仕事繁忙期で会えなかったらなんか知らんけど、無理ってメッセージ送られて終了」

ビールを呷りながら洋平は片手でスマホを操作し、画面を理一に見せる。
そこにはびっしりと改行なしに恨みつらみが書きなぐられていた。
よくこんな長文考えられるなと感心しながらもその内容を流し読みする。

「まぁでも繁忙期が来るのはどの仕事でもありうるからなぁー」

そう言って理一は洋平のスマホから目を離した。

「あー理一みたいな女の子っていねぇのかな?」
「意味わからん」

一笑に付して片づけたい発言だがどうにも一縷の望みが消え失せないのであえてあっけない返事を返す。

「えー!だってお前なら何でもわかってんじゃん!」
「何でもってそんなわけねぇだろ」
「保育園からの付き合いだろー全部知ってんだろ。俺の初恋とか」
「忘れた」

いや、覚えています。洋平くんの初恋はゆり組の吉野先生でした。と浮かんだ答えを溶けた氷で薄まったハイボールとともに飲み込む。

「ひでぇー!俺はちゃんと覚えてるよ?理一の初恋はミカちゃんだろ?」
「誰だっけ?」

一瞬ドキリとしたが、洋平にやはり自分の気持ちはバレていないと理一は胸の奥で安堵する。

「お前なぁー、そういうのやめろよなぁー。顔だけはいいのに……」
「だけは余計だろ」

そう言いながら理一が残りのハイボールを飲み干すと見計らったように店員がオーダーを取りにきた。

「お客様、そろそろラストオーダーのお時間となっております」
「うそ、マジもうそんな時間?えー理一今日泊まってく?」
「あー別にいいけど」
「じゃあ出て俺んちで飲みなおそうぜ。すいません、お会計でお願いします」

かしこまりましたーと去っていく店員の背中を理一がなんとなく見送っていると洋平がしたり顔で声をかけてきた。

「なに、ああいう子がタイプなの?」
「は?ちげーよ」
「でもさー理一マジで彼女作らねえよな。もったいない」
「別に。必要になったら作るさ」
「うわ、嫌味!」

大げさにのけ反って見せる洋平に理一は緩く笑う。

「お前が本当に一生添い遂げる相手を見つけたら……作らざるを得ないかもな」
「ん?なんか言った?」
「いや、別に……一人3000円な」

小首をかしげてこちらを見る洋平に理一はまた緩く笑って首を振ると。店員から手渡された伝票を見てそう告げる。

「うーい。じゃあ5000円渡しとく。残りで酒とつまみ買って帰ろうぜ」
「お前まだ食うのかよ」

口ではそう言いながらも理一は大事に洋平から受け取った紙幣を持つとそのまま会計へと向かった。

「そういえばさ、なんかお前海外行くとか言ってなかった?」
「あー研修な」
「決まったの?」
「うん。来月の下旬からかな」

コンビニで目に付くものをとりあえずカゴに放りながら理一は返事を返す。その研修は洋平に彼女ができたのと同時期に自分に来た話を二つ返事で受けてしまったものであった。まさかこんなに早く別れるとは思っていなかったし、件の元カノは以前から洋平に熱心で元カノがいる頃から入念に洋平をリサーチしアピールしていたのをすぐ傍でみていたため今度こそ恐れていたアレが来るのだろうと最終勧告から逃げる為の口実で海外研修に喜んで飛びついたのだった。

「どれぐらいだっけ?」
「うーんと3か月ぐらい」
「えーマジか……さみしくなるなぁ」

お気に入りのレモンサワーの缶をかごに放りながら洋平がか弱い声を出す。

「それ、さっきカゴ入れたぞ」
「え!マジ?気が利くー!そっかーお前があっち行ったらこういうのもなくなっちまうんだなぁ……」
「帰ったらまたいくらでもできんだろ」

他意はなくとも嬉しい言葉に思わず理一の頬が緩む。

「そうだけどさぁーお前が向こうで金髪美女の彼女とか作ったらさぁー」
「なんで金髪限定なんだよ」

あらかた買い物を終えた二人はそのままレジに並ぶ。

「お前好きそうじゃん?」
「勝手に俺の好みを決めるな。仕事で行くんだ。そんなことしてる暇ねーよ」
「うわ、真面目かよ」
「悪かったな」

袋詰めされた酒たちを両手に抱える洋平の横で理一が会計を済ませる。

「俺も今から申請したらいけるかな?」
「お前、営業だから無理だろ」

連れだって店を出ながら頓狂なことを言い出す洋平に理一は思わず吹き出す。

「え、てかぶっちゃけ今回の研修って何のためにいくの?」
「だから、社内システムの構築に必要なスキル取得と情報交換だって言ったろ?」
「あーそうだった!だから俺には無理だってあきらめたんだった」
「は?お前まさか行こうとしてたの?」
「当たり前じゃん。理一が一緒なら絶対行ったら楽しそうじゃん」
「楽しそうって……」

思わぬ事実に理一の口元が緩む。

「彼女出来たばっかだったくせに」
「まー結果別れたし。関係ないっしょ」

ケラケラと笑う洋平の声に理一は何とも言えず心の奥が暖かくなるのを感じる。
洋平に友情以外の他意はない。でもそれでも、嬉しいものは嬉しい。

「まぁ……有休申請通れば3日くらい遊びに来ればいいんじゃね?」
「うわ!お前天才!」

ぜってー月曜有休申請する!と大急ぎでスマホにタスクを追加する洋平の横顔を理一は静かに見つめる。

「なぁ洋平」
「んー?」

スマホから目を離さずに生返事を返す洋平に理一は続ける。

「もしさ、俺がさ」
「うん」
「俺が……その」
「うん、どうした?」
「俺が……」

そこまで言って、洋平がいつのまにかスマホから目を離して自分をまっすぐに見つめていることに気づき、理一は口を噤む。

「いや、なんでもない」
「はぁーなんだよーお前たまに変なこというよなぁー」
「うるせぇな」

洋平の暮らす1LDKのアパートの階段を順に昇りながら変なやつだなぁと首を傾げる洋平の背中を追いかけるように理一も続いて階段を昇って行った。

「で、あっちでの家とかもう決まったの?」
「あーうん。会社が用意した部屋があるらしい」
「へー着いたら写メ送ってよ」
「わかった」

部屋に入りいつもの定位置にお互い座りながらコンビニ袋からつまみや酒を取り出す。
そのまま流れるように再開した二人だけの宴会はすぐに先ほどの居酒屋での空気を取り戻し、洋平はまた500mlのチューハイを抱えながら机に突っ伏した。

「洋平、あんまり飲みすぎんなよ」
「飲んでねーよ……」
「それで最後にしろよ」
「締めのラーメン食っていいなら最後にする」
「あとでお湯わかしてやるよ」

理一の返事にウヘヘ。とだけ笑うと洋平は突っ伏したまま器用にもう一口酒を呷った。

「理一さー」
「うん」
「マジさーお前あっちでさーいい人いたら捕まえてこいよ」
「だから、さっきから……あり得ねぇって」
「いや本当に。お前さ、いつも俺のこと気にしてくれてさ。自分のこと後回しにすんじゃん」
「別に、友達だから普通だろ。お前だって俺に何かあったら助けてくれんじゃん」
「大したことしてねーよ。高校の時、理一カツアゲされそうになってたから相手ボコしたぐらいじゃん」
「フフッ、あったなそんなこと」

缶ビールを呷りながら理一は小さく笑う。

「だからさ、俺がいなかったらお前色々と、好きに……出来んじゃねーかなって」
「……」
「俺さ、お前に彼女出来たらちょっと寂しいって思うかもしれないけどでもそれ以上にすっげー嬉しいと思うんだ」
「……ってんの?」
「え?」

ボソッとつぶやかれた理一の言葉が聞き取れず洋平が理一の方へ身体を寄せて聞き返すとそのままグイッと腕を掴まれそのまま床に押し倒された。

「り……いち?」
「お前、それ本気で言ってんの?俺がお前のために我慢して女作らねぇって思ってんの?」
「え、あ、いや……えっと」

見たことのない理一の表情と聞いたことのない声音に洋平はしどろもどろになりながら視線をあちこち泳がせる。

「もういい。ずっとこのままでいいと思って我慢してたけど……」

そこで言葉を区切ると理一はそのまま洋平の唇に齧りついた。

「ふぐっ!?」

突然の行為に洋平は目を白黒させるが、隙をついて侵入してきた理一の舌に口腔内を弄られいとも簡単に脱力してしまう。

「んぅ……」
鼻の奥から自分のものとは思えない艶っぽい声が漏れ、洋平は思わず身じろぐ。

「俺が、どれだけ……クソッ」

洋平の反応を拒絶ととらえたのか理一はそう吐き捨てるように言うと着ていたシャツを乱暴に脱ぎ捨てた。

「俺はな、洋平。お前しかいねぇんだよ」
「へ?……ぅあ!」

ベロッと首筋に舌を這わされまた変な声が上がる。

「女なんかどうでもいい。お前がいればいいんだ」
「うそ……」
「ずっと隠してた。お前鈍感だからバレなかっただけかもしんねーけど」

そう言いながら理一は洋平の耳元へ唇を寄せる。

「いやだったら殴って。あん時カツアゲ野郎ボコした勢いで」
「なんだよそれ」

洋平が理一の言葉にフフッと笑って見せると少しだけ安心したように口の端を上げて理一が笑みそのまままた洋平の唇に深く口づけた。

「んっ……ぅん」

器用に動く理一の舌に自然と零れる声が自分のものかと疑いたくなる。

「洋平、可愛いな」
「う、るさ……ああっ!」

いつのまにか理一の手は洋平の下腹部へと這わされ、履いていたジーンズの上から自身を優しくなでられ思わず声が上がる。

「洋平ちょっと固くなってんじゃん」
「うっせ……だって、お前のキスきもち…んんっ!!」
「へぇーそれは嬉しいな」

ニコリと笑うと理一は器用に洋平の服を外しそのままあちこちにキスを落とす。

「ふっ、んっ!……ひぁっ!ああっ!」

きつく吸い上げる度に洋平の口から淫らな声が零れ落ちる。その間も理一は洋平自身をジーンズの上から幾度も優しく撫で上げ刺激を送り続けた。

「あっ、な、り…いち」
「ん?」
「した、キツ…い」
「ん?あぁ本当だ。悪い、今楽にしてやる」
「ん……」

手際よく理一がフロントホックを外すとボロンと洋平自身が露わになり、先端からは愛液があふれ出ていた。

「一回出すか?」
「え?……あああっ!!」

洋平の返事を待たず、理一は即座に洋平自身を扱き出す。手の動きに合わせ、あふれ出る愛液のおかげでグチュグチュと卑猥な水音が部屋にこだました。

「んっ、あっ、り、いち……だめ、あああっ!」
「何が?すごく気持ちよさそうだけど?」

チュッチュと小さいキスを幾つも額に落としながら理一は優しく洋平を抱き寄せる。

「ほら、洋平。一度出せ。そうしたらすっげー気持ちよくなれるよ」
「あ、あっ、ひうっ!!ん、…でちゃ、う……あああっ!!」

理一から送られる刺激に洋平はあっけなく達し肩で大きく息をする。

「そのままゆっくり深呼吸してろよ」

洋平は言われた通り幾度か呼吸を繰り返していると今度はウシロの方に違和感を感じた。

「え、え?」
「いやだったら殴れって言ったろ」
「ちょ、え、り……ひあっ!!」

脳内の思考が追い付かずしどろもどろになっていると、今まで意識したことのない箇所にカッと熱を覚えた。

「あ……あぁ、う…ぁ」
「深呼吸続けろ」
「ん、ぁ……む、り」

物凄い圧迫感に自然と呼吸が荒くなる。

「大丈夫だ。最初だけだから」

そういいながら理一は吐精してくたんと前に垂れている洋平自身を手に取る。

「っう!」
「洋平、息して」

耳元でそう囁かれ、なぜだか腰が震える。そして優しくペニスを扱かれ、また消え去っていた快楽が緩やかに芽生えてきた。

「あっ…うぁ……んっ」
「そう、お前は気持ちよいことだけ考えてろ」
「んっ……りぃち」

うわごとのようにその名を呼ぶ理一は優しく洋平に微笑みかけそのまま深く口づけた。
ジュブ、チュク…とどこから湧いてくるのかわからない水音の大きさが増す。

「あっ…んあっ……りぃち、ナカ……あああっ!!」

カリッと今まで感じたことのない箇所に理一の指が触れ、途端にハレーションを起こしたように目の前に星が散る。

「あぁ、ココか。わかった」

理一はニヤリとそう笑うと静かに指を引き抜く。

「ぅん…」
「そんな声出すなよ。すぐにもっとよくしてやる」
「へ?」

理一は一度身体を離し、洋平の服をすべて脱がせるとそのまま自身もジーンズの前を緩めてすっかり勃ち上がった自身を取り出し洋平の秘部へと宛てる。

「あ、うそ…」
「ボコボコにするなら今が最後だぞ」
「え?あ……フフッ、バカだなぁ。しねーよ」

なぜだから自然とそう口から零れ落ち洋平は思わず笑ってから少しだけ驚いてみせるが、それ以上に理一が見たことにないようなぽかんとした顔をしていたため、無性に気恥ずかしくなりそのまま洋平は理一にしがみつく。

「で、でも痛かったらボコすかも」
「ハハッ、肝に銘じておく」

そう静かに笑うと理一はゆっくりと自身を洋平のナカへ進めていった。

「あっ…ぅあ…」
「息吐いて」
「ん、…ああっ、ぅ、ン……」

緩い抽挿はすぐに快楽に変わり洋平は理一にしがみついてそれを享受する。

「クソッ、腰とまんね……」
「あっ、うあっ、り、いち……きもち…」

うわごとのように洋平が理一の名を呼べば、すぐに深い口づけが与えられ更に快楽が増す。先ほど吐精したばかりなのに既に洋平のペニスは勃ち上がり、また先端からだらしなく愛液が零れ落ちている。

「んぁっ!だ、め……また、でちゃ…」
「あぁ、いいよ。何度でも気持ちよくなって」

理一の動きが徐々に激しくなり二人の結合部からジュクジュクと音が増す。

「あっ、あっ、ああっ、り、いち…だめ、俺、イ…っちゃ、りいち…」
「洋平、っ……好き、だ…お前しかいねぇんだよ…」

絞り出すようにそう告げ、理一はまた激しく腰を打ち付ける。

「あっ、……ん、う…り、いち……」

その言葉にだらしなく洋平は腕をあげ、理一の首に回す。

「あ、おれ……も、あっ、あっ、ダめ、イく……ああああっ!!」

そしてしがみついたまま洋平は上体を大きく反らしそのまま達した。

「クッ……締まる……ぁ」

少し遅れて理一もまた洋平のナカに吐精する。幾度か腰を打ち付け、精を出し切ると自分の下で脱力しきった洋平の頬を理一は優しくなでた。

「悪い」
「なんで?」
「半ば強引に……」
「俺もお前のこと好きだよ」
「えっ……」

ズルンと性器を引き抜くと同時に洋平から与えられた思いもよらぬ告白に理一はまた大きく目を見開く。

「多分、てかいや。うん、俺もずっとお前が好きだったんだと思う」
「ようへ……」
「ごめん、なんか。それ考えると結構俺、ひどいことしてたな」

ポリポリと頬を掻きながら申し訳なさそうに謝る洋平をそのまま理一は抱きすくめる。

「関係ない。今そんなことどうでもいい」

肩口に顔をうずめ、震える声でそう告げる理一の背中を洋平は優しく撫でる。

「なぁ、理一」
「ん?」
「このまま、抱きしめて、離さないで」
「……当たり前だ」

理一が少しだけ顔をずらし洋平と額をくっつけ合わせる。お互い静かに微笑みあい、そのまま流れるように唇を重ねた。

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ichigomilk

つたない文章ですが、みなさんの心に届きますように!どうぞよろしくお願いします!

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