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魅惑の誘惑に惑わされた男たち
BAR「ユニコーン」、ここには、いろんな客がやってくる。
表向きは普通のBAR、裏では客同士が盛り合う乱交場……私はそこで、バーテンダーとして雇われ、働いている女だ。
主な仕事はバーテンダーとしての業務だけど、毎日の閉店間際に、お客様の汚したトイレ清掃やお客様を提携しているホテルに誘導したりと、様々な業務を請け負っている。
……そんな説明をしているミステリアスな彼女が出会ってきた客の話をするのは(プライバシー保護の観点からよろしくないとは思うけれど)、名前を伏せたり変えればいいだろうと、何度も説得して4つ程度、彼女に話してもらった。
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一:幼馴染の夫婦二組
ひとつめの話は、とある仲良し夫婦2組が来店した時の話だ。その2組は酒が弱いけど、BARに来たかったようだ。お互い幼なじみ同士だといっていた。なにかの縁を感じて当店に来店したようで、私は度数の低いカクテルを出し、おもてなししたのを覚えている。
ぽつぽつと小さな声、BARの雰囲気を壊さない話し方をしながら、ゆったりした時間を楽しんでいた。緊張もすぐにほぐれたようだ。
しばらくして、トイレに行った幼なじみの男と妻が帰ってこないと心配げに話していたので、私が確認してきます、と2人に声をかけ、トイレへと向かった。
「あ!ぁあぁっ……!」
「っくそ、締まりがいいなぁっ……!」
「……やはり、こうなってましたか。」
ここのトイレでは、セックスへの緊張感を減らすために、お香を焚いているのだ……それにあてられて、うっかりセックスをしてしまうお客様も多いので、ここはマニュアル通りに。
「お客様、当店は同意のない不倫セックスは禁止でございますが……合意はおありで?」
「っ!……合意だ、合意!」
「女性の方は嫌がっていませんよね?」
「ぃ、や、りゃない、れすぅ……!」
「大変失礼いたしました、では提携しているホテルまで案内する係のものをお呼びしましょうか?」
「ホテ、え?」
「ここでは挿入込みのセックスはルール上ほぼ不可能なので、代わりにホテル半額プランとして最大4名様までホテルに招待できるんですが……しますか?」
「じ、じゃあそれで……」
「よ、ろしくおねがいしまし、ゅぅう……!!」
早速ホテルの手配係に連絡し、盛る2人を引きはがして身支度をさせ、そこから待っていた2人と合流させて、提携しているホテルまで誘導した。
……風のうわさでは、実はこの仲良し夫婦たちは、お互い愛し合っていたものの、仕事の都合で興味のない方と結婚させられていたらしく、久しぶりの逢瀬の勢いで、盛ってしまったらしい。
今では月に一度ホテルを利用しているようで、たまにBARにも顔を出してくる。
……私としては、楽しんでいただければそれだけでいいのに。
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二:結婚指輪を付けた女
ふたつめのお話は、結婚指輪を付けた常連の女王様の話だ。
ひとりで来店する彼女は、店のちょっとした名物客だ。周囲には男性客が集まっている。なんていっても、ひとり静かにグラスを傾ける様は、女の私から見ても、とても様になっていてかっこいい。
BARのマナーを守って大人数でも静かに飲む彼女の仕草に、お客様たちは夢中になっている。
スタッフ間でのあだ名は「女王様」、気品があって「強い」印象があるからだ。
そんな女王様は以前、トイレで連れの男性をぺニバンかなにかで犯していたようで、閉店前準備の時に置いていかれていた男性(もちろん上も下も頭もどろどろになっていた)を回収したこともある。
その時の男性の肛門はぱっくりと開いていて、中の肉色が良く見えた……そのことで一度女王様からは謝罪されていたのだけど、それでも犯し癖は治らないのか、BARに来ては、数回に一回は男性を抱き潰すように、快楽地獄に叩き落としている。
毎回回収する手間はかかるけど、女王様のおかげで、マナーを気にするお客様や、新規のお客様も増えた。なので、いいことの方が多いからこのままいこうと上から指示があったのだ。
「お、ぉ……」
仕方ないと諦めていたけれど、女の私が力の入らず恍惚とした状態の大人の男を持ち上げるのは難しいので、毎回2人がかりで男性の介抱をしてから、掃除をするのは大変だった。
「……どうします?この方。」
「一応お客様だから、丁寧に扱わないといけません。」
「でもこの方、既婚者みたいですよ?お家族に連絡とか……」
「この方の妻に『夫さんがBARのトイレで弄ばれて肛門かっぴらいてアヘってます。』って連絡するつもりですか?」
「……バックヤードで手当をしましょう。」
……女王様のお付きの人問題には。しばらく悩まされそうだ。
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三:結婚記念日の夫
みっつめの話は、結婚記念日に来店した男性の話だ。
このお客様が初めて来店した時は、妻と一緒だった。しかし、この日は妻を連れずに、ひとりで来店してきた。
不思議に思っていたけど、それには理由があった。 このお客様は(お酒が入った状態で言っていたことだが)妻と相性が良くなくて、何度か離婚の話をしていたらしい。しかし、妻は許してくれなく、耐えかねた彼は、このBARの裏の噂を聞きつけてやってきたようだ。
「ここが噂通りのBARなら私の欲求を満たしてくれると思うんです。」
「欲求ですか。」
「ええ、私の欲を満たしてくれる女性が……」
「失礼、注文いいですか?」
「……あなたは。」
現れたのはふたつめの話に出てきた女王様。
「ご注文は。」
「ブラッディメアリーで。」
「あ、あの、あなたは……」
「私?……私はただのこのBARの常連客ですよ。」
にこやかに笑う女王様は、それはまぁ美しく見える……バックヤードの監視カメラで見ていた他の従業員たちは賭けを始めていた。
バーテンダーとしての業務を片付けつつ、裏では、提携しているホテルにいつでも連絡できるよう用意を進めていく。
「お名前は?」
「ナンパ目的ならお断りします、私は一応既婚者なので……」
「い、いえ、その……あなたに会いたかったんです、いつも見かけていて、素敵だなと思っていたので……」
頬を赤らめた男性客が、女王様の手を握ろうとしたところで妨害した。
「ブラッディメアリーです。」
「ありがとうございます……それで、会いたかったと?」
「は、はい……!!」
「……ちょっとだけお時間いいですか?」
これは女王様の勝ちだ、バックヤードでも女王様に賭けた従業員が勝ち誇っている様子がイヤホン越しに聞こえてくる。
そんなことを知らない男性は、頷いて女王様の後ろについていくようにトイレに向かって行ってしまったのだ。
「……ホテルの手配を」
小声でバックヤードの従業員たちに指示を出すと、了解です、と返事があってしばらくすると、トイレからかすかに悲鳴のようなものが聞こえてきた。何事かと思いつつ、状況確認のためにトイレに向かった。
「あ、ぁあ!しゅ、しゅごいぃいっ……!!」
「もう少しケツマン緩めないと奥まで入りませんよ?」
「は、ぎゅ、ぅ、う~……むり、むりぃっ……!」
「無理じゃあないですよ、ほら……息を吸って、吐いて……」
ひっひっと息を荒げてスクワットか空気椅子のような体勢をとる男性は、いつものスマートさのかけらもなく、そして女王様は(たとえるなら)カエンタケのような、歪な形のぺニバンを付けて便座に座っている。
「ああもう、バーテンダーさん来ちゃいましたよ。」
「ぁ、みない、れぇっ……!!」
「嘘ついちゃだめですよ、見られたいんでしょう?……しっかり可愛い”メス”になった姿を見せましょうね。」
「お客様……ホテル、行きますか?」
「あら、ホテルなんてサービスにあったんですか?」
「一応あります、ただ提携ホテルの誘導までに、あなた様はお連れの方を、抱き潰してしまうみたいなので……」
「それはすみません。」と申し訳なさそうに謝る女王様は、半分意識が快楽に持っていかれている男性を揺すりながら、ホテル行きます?と聞いてくる。
「う、わぎにぃっ!な、っち、ゃ、ぅう……!!」
「今更でしょう?諦めた方がいいですよ。」
「ではホテルの手配を進めておきますので、もうしばらくここでお待ちください。」
「はぁい。」
「は、ぃい……!!」
この後、早急にホテルの手配をし、女王様が男性を抱き潰す前に、無事にホテルへと誘導することができた。
ホテルの中で彼がどうなっているのかは想像できないが、ただひとつわかることは、この後女王様の連れがひとり増えたということだろうか。
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四:バーテンダーに手を出す既婚男性
最後の話は、我々バーテンダーや従業員に手を出そうとしてきた男性の話だ。
本来なら店員に手を出すことはご法度、あの女王様ですらやろうとしないことをしようとしてきたという話で、結果どうなるというものではなかった。
被害者は入ったばかりの新人、相手は既婚者の男性だった。バーテンダーとしての技術は未熟でも、熱意はあった彼女は、常連客でもある彼に、少なからず惹かれていた。
そんな時に、男性はバーテンダーの新人に声をかけた……「結婚相手に辟易している」と。彼女は素直にその言葉を信じて、もっと彼のそばでサポートがしたい、と言葉通りに店を飛び出そうとした。
飛び出したらどうなるのかもわかっていて、彼女は店を出ていった。
……このお店は私たちのようなあらゆるものから逃げてきた人間の最後の砦、なのに彼女は男性と一緒にタブーを犯してしまったのだ。
店を出てすぐに、彼女は彼女を探し回っていた反社会的勢力の構成員に捕まって、見世物小屋のような部屋で、何ヶ月も犯されて動画を撮られ、最後は顔に大きな傷を付けられた。
救出された頃には身体も心も傷だらけで、近くには常連客で彼女を騙した男性が、虫の息な状態で床に転がっていて……。
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……話しすぎましたね、そう語るバーテンダーの女性は、真夏だというのに長袖を着ていて、顔を髪で隠している。
そのバーテンダーの語る彼女とは、自身のことなんじゃないか、そう思った瞬間空調の風がバーテンダーの髪を揺らす…。
その髪の下は引きつったような、ただれたような傷がびっしりとついていて、やっぱりもしかしたらと、考えたその時、来店した客にメニュー表を渡そうとした、彼女の手首に深い1本の切り傷の痕がついているのが見えた。
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