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我儘王子は敏腕執事に仕込まれる
「もう信じられませんわ!なんと汚らわしい!このお話はなかったことにさせて頂きます!」
バタン!と大きな音と共に応接室の扉が開いたかと思うと、先ほどバラ色に頬を染めながら奥へ入っていった令嬢が、丁寧に結い上げられた髪を振り乱し、小走りに飛び出してきたのだ。
「はぁ……」
またか、とイリスは深くため息をつきながら、令嬢の前に跪く。
「申し訳ありません、レディ・ローズ。この度は我が君主が無礼を……」
「もう結構!一秒たりともこんな場所にいたくはありません!」
令嬢はイリスの言葉を遮ると、ヒールの音を響かせながら、一度も立ち止まることなく、屋敷を後にしていった。
「あっれー?帰っちゃった?」
先ほど令嬢によって力づくに閉じられたせいか、ギィィと情けない音を立てながら後ろの扉が開き、中から間延びした声が響いて聞こえてくる。
「王子……これで何回目になりますか?許嫁様がいらっしゃる日は連れ込むなとあれほど……」
膝についた埃を払いながらイリスは立ち上がると、声の主を振り返る。
「おや、先日のメリンダ嬢ではなかったのですか?」
「あーあいつ?なんかしつこくってさーめんどくさいから切った。ちゃんとお前のいう通り、希望の金は払ったし、円満解決だ!あ、でこいつはルチアな!」
零れ落ちそうな、いや、半ばはみ出たままの乳房を、そのままにルチアと呼ばれた女は、一度ニコリと笑うと、ヒラヒラとイリスに手を振ってみせる。
「どなたを連れ込もうと結構ですが、明日だけは王族らしいふるまいをお願いします。」
「あーあーわかったって。父上の誕生日だろ?ちゃんとするから。まかせとけ。」
イリスの言葉にかぶせる様にヒースは大きな声で返事を返すと、そのままルチアの肩を抱いて、部屋へと戻っていってしまった。ギィィと同じように音をたてて締まる扉に、イリスは大きくため息をつく。
暫くしてからまたいつものように聞こえ始める嬌声の中、イリスはヒースが放ったままにしてある書類を、手早く片付け始めた。
「このことを亡くなられた皇后が知ったらなんと嘆き悲しむことか……」
幼くして母を亡くしたからと、甘やかしすぎたのがいけなかったのか。年の離れた兄と父親は、全国民から愛され頼りにされる素晴らしい君主なのに。ヒースこと第二王子の我儘っぷりには、誰もが手を焼いてしまうほどで、腫物に触るような扱いをしていた。
「仕方ない。時がくれば少しはおとなしくなるだろう。」
気付けばいつのまにか嬌声は止み、奥から響く声はクスクスと笑いあうものに変わっている。イリスはまた軽くため息をつくと、そのまま物音を立てずに片付けを進めていった。
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「ヒース王子、あくびはお控えください。」
厳粛な空気が流れる中、悪びれる様子もなく大きなあくびする様子に、イリスは後ろからヒースの背中を小突いた。
「えーバレないって。大丈夫だって。それよりさー俺ちょっと出てきていい?」
「は?」
予想外の発言に流石のイリスも、素の声で返してしまった。
「いや、別に俺がいなくてもいいでしょ?てかさ、実は来てるんだよね。」
「来てるとは?」
「ルチア。昨日の女だよ。一度でいいから出たい!ってきかなくってさー。」
ハハハと笑ってみせるヒースに、イリスは慌ててその腕を掴んで、耳打ちをした。
「失礼ですが、ルチア嬢はどう見ても貴族出身にはお見受けできませんでしたが?」
「そうだよ?当たり前じゃん。」
「ふ、ふざけないで下さい!そんな身分の知れない人間を、招待できるわけないでしょう?」
「えーでもさぁーあ!こっちこっち!」
イリスの気苦労など気にも留めず、ヒースは来賓客が並んでいる方を向いて手を振る。そちらを向けば着飾った貴族たちの間を縫って、胸の大きく開いた派手なドレスに身を包んだルチアが、小走り駆け寄ってくるのが見えた。
「ちょ、王子!」
今はまずいと止めようとするや否や、司会進行を務める執務大臣の声が、会場に響いた。
「ではご子息たちよりお祝いのお言葉です。第一王子、フレデリック。第二王子ヒース。両者前へ。」
その声を合図に会場中の視線がヒースに注がれる……寸前のところでイリスは、ヒースとルチアを抱えて会場から逃げ出した。
万が一のために城の外に待たせておいた馬車にルチアを放り、そのままヒースがいる離れへと向かう。ギィィと情けない音を立てて扉を開けると、ベッドの端に腰かけ縮こまっているヒースの姿が見えた。
「珍しい。逃げ出していると思いましたよ。」
「あ、いや……流石に、うん。」
「会場に戻りますか?」
「あ、いや……来なくて大丈夫だってマーサがさっき……」
「左様でございますか」
「その……ごめん。」
「そうおっしゃるのであれば最初からあのような真似はお控え頂きたい。」
「あ、うん……」
思いのほかしおらしく、逃げ出すような素振りは見せなかった。イリスは一度会場の様子を見に行こうと、ヒースに背を向けた。
「行くな。」
「はい?」
「行かないでくれ……」
絞り出すようなヒースの声に、イリスは肩をすくめると彼の元へと歩み寄る。
「王子、別に私は……」
「やめてくれっ!」
優しく諭すような声音で声をかけると、ヒースはそれを遮るように叫びイリスにしがみついた。
「わかってるんだ。俺を産んだせいで母上は病気がちになった。父上からも兄上からも母上を奪ったのは俺だ。だから別に望みなんてない。でも、お前は、お前だけは……俺から離れないでくれ。」
もう、これからはいう通りにするから…。
そう消え入るような声で呟いたのち、ヒースはイリスの返事を塞ぐように、自分の唇をイリスに重ねた。短いキスの後、すぐに唇を離すとヒースはそのまま項垂れる。
「……王子。」
イリスは暫くヒースの項を見つめた後、優しく声をかけた。
「うん……」
「私はどこにも行きません。貴方のお傍にいつもおりますよ。」
イリスの言葉にヒースの顔が、みるみる笑顔に変わっていった。
(なんだ、案外かわいらしいところもあるもんだな)
子犬のような笑顔に、イリスもまた微笑むと、彼の頬を掴み優しく口づけた。
「んっ、ん……な、なぁ……あっ、い、イリスっ……ほん、とに……するのか?」
「貴方がそう望まれたのでしょう?」
短い口づけと全身への愛撫を繰り返しながら、ヒースの服を少しずつ脱がせ、イリスは彼の上でニヤリと笑む。
「そ、そうなんだ……けどっ、んっ…ぅ」
「あぁ、王子。あなたそんな顔ではせっかくの男前が台無しですよ」。
トロントロンに蕩けた顔で人差し指を咥えながら、自分を見上げるヒースにイリスは感じたことのない嗜虐心を覚え、つけていた手袋を口で外しながら、そっと彼の耳に囁いた。
「せっかくですから触って差し上げましょう。」
「えっ、う、そ……やめ、あああっ!!!」
咄嗟に足を閉じようとするが、イリスはそれを拒み、ヒースの下着を強引にはぎとると、既に愛液を垂らしながら起立させる彼のペニスに、指を這わせた。
「いやっ……イリッ、汚い……」
「いいえ、とってもかわいらしいですよ。」
遊んでいるように思えたが、それにしてはピンク色で初々しいその形に、イリスは微笑みながら手中で弄び始めた。
「貴方が連れ込んだ女性たちは、貴方を可愛がってはくれなかったのですか?」
「ちがっ……た、勃たなかった…んだ」
「……」
予想外の答えに、イリスは一度その手をとめて、まじまじとヒースの顔を覗き込んだ。
「だ、だからいつも……おっぱい触らせてもらったり、一緒に寝るとか、そういうだけで……」
「でも私の前では、このように立派になられておりますが。」
「そ、それはっ!イリスだから……あっ、いや……その、ごめん。忘れ。て」
顔を真っ赤にしながらそう叫ぶが、すぐに自分が墓穴を掘ったことに気付き、ヒースは枕を引き寄せそこに顔をうずめた。
「王子、顔を見せてください。」
「やだ。」
かたくなに拒むが、ペニスをなぞれば、愛らしい声が枕の下から聞こえてくる。往生際が悪いな。イリスはヒースの態度にまた一度笑むと、その耳元に唇を寄せた。
「ヒース様、私に顔をお見せください。」
名を呼ばれたヒースは、ガバッと枕から顔をあげるとイリスの両頬を掴んだ。
「さま、をつけるな。」
「しかし。」
「今だけでいいから。」
今にも泣きそうな声で懇願され、また先ほどの嗜虐心が膨らむ。
「では、そのように。」
イリスはそう呟くと、そのまま深く口づけた。
「んっぅ……ふぐっ、んっ、んっ、……んんっ!」
角度を変え深められるキスに、ヒースは溺れるようにイリスの肩にしがみつく。舌を絡ませ、一度強く吸い上げればビクンと身体が跳ね、ヒースのペニスからは愛液があふれ出た。
「だめ、イリ……ス、でちゃ……」
「一度出して差し上げましょう。」
口づけの合間に喘ぎながらそう訴えるヒースに、イリスは一度微笑むと、そのまま体勢をずらし彼のペニスを優しく咥えこむ。
「んああああっ!!」
初めての快感にヒースは思い切りのけ反ると、その快楽をどうにかやり過ごそうと、イリスの頭を掴んだ。イリスは微笑みながら、優しく全体を舐め上げ、舌を絡めてくる。ヒース自身の解放が近いのか、ペニスの怒張に合わせ、ヒクヒクと震える秘部に指を添える。すると、待ち構えていたかのように、それを静かに飲み込んだ。
「んっうぅ……!」
頭部に添えられたヒースの手に、力がこもった。
「やばっ……ああっ、きもちぃ……んっぁ…同時、ダメ……ああ、イく…」
無意識なのか、動く腰に合わせるように、指の動きと舌の動きの強弱をつけ、イリスはヒースを追い詰めた。
「あっ、あっ、あっ……イ……くぅ…んあっ!!!」
腰のスピードに合わせ、一度強く吸い上げる。すると、ヒースのペニスはあっけなく吐精した。秘部に深く挿入した指は、そのままにはぁはぁと肩で大きく息をするヒースの額に、口づける。
「ココ、使ったことあるんですか?」
「……」
コクリと頷くヒースにどこで?と問い詰めそうになるが、イリスは深く深呼吸して怒りを鎮める。
「じ、自分で……お、男同士はそこ、使うって……んっ」
「じゃあ入れられたことは?」
「ない。」
「……そうですか。」
ヒースの返事にイリスは満足そうに笑うと、今度は無言で自分の着衣を解くと、そのままそそり立った自身のペニスをイリスの秘部に押し当てたのだ。
「あっ…い、今イったばっ……あぁっ!!」
自分でだけ、という割にはすんなりとイリスのペニスを飲み込んだ。そして、ヒースのナカはうねうねと動き、熱くきつく包み込んできた。
「っく……」
持っていかれそうになるその快感に、イリス自身も一度腰の動きを止める。
「本当に、貴方にはこちらの素質の方がおありのようだ。」
「へっ?……えっ、あああっ!」
ズンッ!と深く突き上げられイリスは、されるがままに情けない声を上げてしまう。先ほど吐精したばかりのヒース自身は、すでに半勃ちの状態だった。
「あっ、あっ、い、イリ…スっ……んんっ!」
「気持ちいいですか?……私も、ここまで、とはっ……くっ」
コクコクと頷くヒースに満足そうに微笑むと、イリスはまた腰の動きを早めた。
「あっ、あんっ、ああっ!!ま、またイきそ……ううっ!」
「何度でもどうぞ。しかし、これではご令嬢は抱けないのでは?」
「いいっ、いいっ!イリスが、イリスがあっ……してくれればいいっ!んあっ、あっ!!」
うわごとのように幾度も名を呼ばれ、たまらずイリスはヒースの唇をふさいだ。
「ふぐっ、んっ……んぅ」
角度を幾度も変え、深く口づけたのち、唇を離す。すると、イリスは思い切り、ヒースの最奥に向かって腰を打ち始めた。
「あっ、あっ、あっ……んあっ!!ああっ!イ、く……イクぅ…」
「えぇ、私もそろそろ……」
「イリス、お願い、一緒にイッて。一人やだあ…」
「承知しました。」
「あっ、ふかっ……きもち、い……んんっ!!」
「……っく」
卑猥な水音が響くなか、二人は見つめあいながら、同時に達した。
「イリス、すっごい…きもちいぃ」
ヒースは呂律の回らない口でそういうと、花のように笑んだのち、意識を手放した。
それからしばらく経ち…
「イリス!この前の国境地帯の見回りの件だけど、もう少し物資を送らないといけないと思うんだ。城の備蓄を回せないか?」
「確認致します。おそらく問題ないでしょう。」
あの一件から放蕩王子は、人が変わったように心を入れ替え、政務に力を入れ始めた。嬉しい心変わりを国民は大歓迎し、王室の空気も変わってきたように感じた。
「……なぁ、イリス。お前の仕事、まだ終わらないか?」
「いえ、急ぎの用は全て……」
書類から目を離しながらヒースの方を向くと、そのまま彼の胸に招き入れられる。
「俺、そろそろ……イリス足りない。」
「承知致しました。」
ヒースの心臓の音を聞きながら、イリスは満足そうに微笑むと、優しく彼を抱きかかえ、そのまま彼の寝室へと向かった。
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