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真夜中の情事~口では好きと言えなくて~
じんじんする。叩かれたとか乱暴されたとか、そういう痛みではない。肌をほんの少し、つーっと撫でられただけで、胸の奥がこんなにも苦しい。
「こうやって触るの、ナリ好きだよねえ。」
「んぅ……っ、」
初めて会った時からずっと、気持ちがいいことはちゃんと「気持ちがいい」と口にしなさいと何度も言われてきた。半年前の会社帰り、ふらりと立ち寄ったとあるバーで、5つ上のコウキと出会い、俺たちは契約を結んだのだ。お互いに気持ちがいいことをしたい時にだけ、2人で決めたホテルに集合する。簡単に言えばセフレだが、フレンドという響きがなんだか寂しくて、考えないようにしている。ただのわがままだ。
頻度は月に一度の時もあれば、毎週の時もある。今月は特に多い方だ。コウキはストレスが溜まると人肌が恋しくなると言っていた。おそらく仕事が忙しいのだろう。今週はもう二度目だ。
「気持ちいい時はそうだって言って。嬉しいから、俺が。」
その言葉だけ聞くと、すごく自分勝手な男のように感じられる。それでも従うしかなかった。俺たちは、身体でしか繋がっていられないのだから。
俺のなかをほぐしていた指が引き抜かれ、ゴムをつけている姿をぽわぽわとした頭で眺める。今日もまた、この時間が始まる。まさか好きになってしまった、だなんて言いたくても言えないこのもどかしい時間が。
「お前の好きな方法で犯してやるからな。」
コウキは意地悪そうな声で俺にそういうと、通常の人よりも大きそうな硬くて太いちんこをゆっくりと挿入してきた。
「んんん……っ、んっ、うっ」
はいってくる間も声が止まらない。どうやら我慢ができない身体になってしまったみたいだ。いつのまにか、コウキに、身体のすみずみまで調教されてしまったのだ。
「お前、口の中も好きだったよな。全部性感帯だな。」
「そんっ、んっ……んむっ」
何か言おうとした唇をキスで塞がれ、ぬるぬるとした唾液を纏っている舌を絡ませ合った。絡ませていてもなかにちんこが入ってくる感覚を、ダイレクトに感じてしまう。奥までぐいぐいと入り込んできて、熱く脈打っているのまで全部、なにもかも気持ち良く感じる。
「ひぁああっ、い、いきなりっ、んんッ」
前触れなく硬いものでなかをかき回される。ゴムが外れてしまわないか心配になるくらい、潤滑ゼリーがぐちゅぐちゅと泡立っているのが感覚でわかるほどだ。
コウキのごつごつした指が乳首を掠めてくる。その細かい快感も拾ってしまい身体を捩ると、さらに強めに乳首を弾いてきた。
「ぁあああっ」
とろけた情けない声を漏らすと、コウキはますます嬉しそうな顔をして小さな突起を捉え、つまみ上げてくる。
「あぅああっ、ちくび、ばっかりッ」
「乳首ばっかり、なんだ?」
「なか……っもっと、激しくしてほしっ」
「もっと激しいの欲しいの?」
「ぃああああッ!」
乳首に唇を近づけ、じゅるっとわざとらしい音を立てて吸ってくる。胸を刺激されているのに腰ががくがくと揺れてしまう。またコウキの低い笑い声が聞こえてくる。
「ナリ、もう胸だけでイけるようになったんじゃない?」
その言葉に、ぴくんっと背筋が震える。試すように、コウキが乳首を指先でくにくに触りながら、耳元で囁いてくる。
「乳首、気持ちいいねえ。これだけでもうイけちゃうねえ。」
「や、やら……っ、むりっ、イけないっ」
「ほら腰揺れてるよ?」
「あ……あぁっ……ッ」
「次強めに吸ったらイっちゃうね?」
コウキの口元が耳から離れ、さっきまで指でいじられていて、赤くなってしまっている乳首に吸い付かれた。強めに吸われた瞬間…
「ぁああッ、イ、イっちゃ……ッ!」
ちんこを咥えているなかがびくびくと収縮し、鼓動が一気に速くなった。足の先はピンと伸び、身体が大きすぎる快感を、そこから逃がそうと必死になっているのがわかる。
「乳首でイっちゃったねえ。」
「はあっ……はあ……はあ……っぁあああんッ」
しばらくなかで動かずにいたちんこが、再び動き出した。あまりの快感の大きさに怖くなり、俺はコウキにしがみついた。さっきまではイきたくないと騒いでいたが、もう抵抗する気力など全くない。乳首だけで中イキしてしまったのだから。次はコウキが満足するまで、俺は思う存分抱かれるだけだ。
チラリとベットサイドのデジタル時計に目をやった。約束していた時間が終わるまで、15分もない。俺の乳首イキに付き合ってくれてくれていたせいで、時間をとってしまった。ここからシャワーも浴びて帰る準備して…となると、かなりバタバタしそうだ。
お互い翌日仕事があるのだ。身体で日々の仕事のストレス解消をしているのに、それが原因で仕事に遅れるなどあってはならないこと。
「ごめ……っ、あんまりっ、じかん、ないかもっ」
「気にすんな。俺ももうすぐイきそうだから。」
そう言ってコウキは速く、だけど、乱暴ではない強さでピストンを始めた。余裕はないけど優しさがあるこの動きが、俺は好きだ。過去に何人かこういう関係を結ぼうとした相手はいたが、どの人にも優しさがなかった。だけど、コウキは意地悪な触り方や発言はするものの、根っこの優しい部分が滲み出るようなセックスをしてくれる。初めて抱かれた時、それに気がついたのだ。
「ナリ、気持ちいい?」
「んっ、きもちいっ、そこぉ……すきっ」
「えらいね。」
頭を優しく撫でられながら、奥をごりごりと抉られる。優しさも意地悪さも強さも、コウキには全部ある。全部あるのに、好きだと口にすることだけができない。俺たちの関係は身体だけのものだってわかってるから。
***
初めて乳首で中イキさせられてから2日後、またホテルに呼ばれた。扉を開けた途端抱きしめられ、早急にスーツを脱ぐように言われた。大人しくスーツを脱ぐと、次は、お湯を張った風呂に浸かるようにと。
バスローブを羽織って風呂から出ると、またコウキに優しく抱きしめられた。
「どうしたの? なにか仕事で嫌なことあった?」
「ううん。」
「そ、ならよかった。」
「俺が買ってきた入浴剤の匂いがするナリ、いいな。俺のものって感じがする。」
そう言われた途端、俺はコウキを勢いよく押し飛ばしてしまった。
「なにそれ。」
「そのまんまの意味だけど?」
「何、俺のものって。俺のものじゃないじゃん。俺とコウキは身体だけの関係なのに、そんな期待させるようなこと言わないで!」
その瞬間、ぶわっと涙が溢れてしまった。とめどなく溢れてきて、もうどうしていいかわからない。
「……お前さ、」
呆れたようなコウキの声。ああ嫌われた。きっとこれで最後だ。俺のせいだ、仕方がない。いや、元はと言えばコウキが悪いのか。思考回路がぐちゃぐちゃになっていく。
「今までこんな頻度で呼び出したこと、あったか?」
「なか……った、けど」
「これでもわかんない?」
「……仕事、大変なんだな、って」
「いやそうじゃなくて。そりゃストレス溜まるとセックスしたくなるのはあるけど、それだけじゃなくてさ……俺、ナリのこと好きだわ。」
ぴたっと涙が止まった。俺が一番聞きたかった言葉。言っちゃいけないと思って、言わないようにしてきた言葉。
「どうして。」
「ナリの身体、いつ会っても全身が俺のこと好きだって伝えてくれてるから。なかが締まった瞬間とか、舌絡み合った瞬間とかさ。」
また意地悪そうな声で言われて、身体がぶわっと熱くなった。立っている俺のところまで歩いてきたコウキが、さっきよりも優しい力で俺を抱きしめた。
「好きだって気がついたから毎日でも会いたくなって。だからこんなに呼び出してる。今日、絶対好きだって言おうと思ってたから。」
「俺も……好きだよ。」
「まあ、お前はもう聞かなくても身体でわかってたけどな。」
顔を見ると、コウキはムカつくくらいドヤ顔をしていた。恥ずかしくなって、照れ隠しに抱きつくと、耳元で囁かれた。
「恋人としてのセックス、しよっか。」
静かに頷くと、手を引かれてベッドに上がった。
***
「ぁあっああっ、ぁあッ!」
肌と肌が激しくぶつかり合う音と俺の嬌声、コウキの荒い息の音が部屋に充満している。今までのセックスも最高だったけれど、今日は特別。
「ん……んむっ……ッ」
唇を重ね、すぐにくちゅくちゅと舌を絡ませる。今までよりもコウキの唾液が甘ったるく感じる。これも恋人同士になったからかもしれない。
いつから俺が好きだって気がついていたんだろう。そんなことを考えようとしても、激しいキスで酸素が薄くなっていき、だんだん何も考えられなくなっていく。
唇を離そうとすると、細い唾液が糸を引くのが見えた。垂れそうになる前にコウキが器用に舌で舐め取ってくれる。また軽く唇を重ね、それから本格的なピストンが始まった。
「奥っ、すき……っぁあ」
「ここもぐちゅぐちゅ触ってやるからな。」
俺の硬くなったちんこを弄りながらなかも刺激されて、もう喘ぐこと以外、何もできなかった。カリ首の部分を重点的に触られ、びくんっと背中が反り返って、そのたびに我慢汁がだらだらと垂れてしまう。
「ナリ、一緒にイきたい……っ?」
「うっ、ん……コウキ……おれのなかでっ、イっ、て?」
「……っ、今の言葉、やばっ」
「ぅああっ、んぅッ!」
ピストンも手の動きもさっきの倍くらい激しくなり、体温がどんどん上がっていくのを感じる。さっきよりもなかに入っているちんこが一回り大きくなっている。俺のちんこも我慢汁のせいで水音が響いていて、もう2人とも限界が近づいていた…。
「あっあ……ッ、出る、出ちゃう……っ!」
びゅ、びゅっと何回かに分けてコウキの手に白濁を吐き出した。完全に射精が終わった後も、コウキの手は止まらない。ちんこがむずむずするのに、なかの刺激が激しくて、それどころではない。
「もっかい、なんか出そ、うっ」
「俺もっ、出るっ!」
ピストンがゆっくりになった瞬間、射精が終わったはずの俺のちんこから、びゅくびゅくと何か透明な液があふれ出た。
「これ……っ、なにっ」
「潮吹きだね。また開発されたな、俺に。」
びっくりした声で聞くと、コウキはちんこを抜いてゴムの口を結びながら、嬉しそうに答えてくれた。本当に、この男に身体の何もかもを作り変えられてしまいそうだ。
「これからもいろいろ開発してやるからな。」
「うん……楽しみにしてる。」
それも悪くない。だってこんなにも大好きな相手だから。これからは恋人として、ずっと一緒にいられますように。
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