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僕と君との秘密
―――これは俺、長嶋康太(ながしまこうた)と藤崎暁(ふじさきあきら)の誰も知らない秘密の話。
家々が隙間なく並ぶ、閑静な住宅街。平日の昼下がり、公道を歩くのは俺、康太以外にいなかった。スマートフォンのナビアプリを頼りにひたすら歩を進める。背負っているリュックには、大学での教材やノートパソコンが入っている。
「んー……此処か……?」
アプリが示した場所で足を止めると、ある一軒家が目に入る。広い敷地に、白い壁。豪邸を思わせる大きな家。緊張の面持ちで、インターホンを押した。間髪入れず、インターホン越しに声が聞こえてきた。
「はーい。」
「僕、康太。」
「おう、そのまま入ってくれ。」
予想以上に大きな家に驚きながらも、敷地内に入った。やがて玄関の前まで近づくと、暁が立っていた。
「よっ。」
「暁。」
「ほら、入れよ。今、誰も居ないからさ。」
「うん。」
おずおずと玄関にあがった。シャンデリアが出迎え、広い廊下を抜ける。暁の後に続いて歩いた。
「暁の家ってこんなにでかいんだな。」
「親父がおふくろの為に建てたんだって。……まぁ、仕事が忙しかったのか、あんまり家に居たためしがねぇけど。」
「……そうなんだ。」
そして、暁は扉の前に立ち紹介した。
「ここが、俺の部屋。」
暁に招かれるまま、部屋に入った。誰かが掃除したのかと聞きたくなるくらい、整頓された部屋。暁ってこんなにキレイ好きだったっけ?
「す、すご……」
「何だよ、緊張してるのか?待ってろ、コーヒー淹れてくる。」
「あ、あぁ……」
部屋に設えてあるテーブルの前に、とりあえず座った。今日は暁の部屋で一緒に大学の課題を終わらせるべく、ここに来たのだ。なのに、何故、こんなにドキドキしているのだろう?
暁とは、大学で知り合った。やや童顔の顔つきの俺に対して、暁は切れ長の瞳に風になびく黒髪。
講堂や食堂では、女子大生が「暁くんかっこいいよね」などと、暁の話で盛り上がっているのを耳にする。それなのに、暁が女子と仲良くしようとしているところは見たことがない。むしろ彼は、康太と常に行動してくれているのだ。
康太は不思議に思ったが、聞き出そうとはしなかった。
部屋の中を見渡してみた。本棚には様々な本が飾られ、テレビにソファー、ベッドもある。まるでホテルのようだ。今まで友人の部屋に何度か行ったことはあるが、ごちゃごちゃしていたり、漫画やフィギュアが飾られているような部屋がほとんどだ。
暁がなかなか戻ってこないので、本棚の本を手に取った。意味もなく、ペラペラとめくり、そして本棚へ戻す。それを何回か繰り返した。
すると、暁のベッドの横に設けてある引き出しが開きかかっているのを見つけた。
「何だ……?」
悪いとは思いつつも、開きかかっている引き出しを引っ張った。
「うわ、なんだこれ……」
引き出しに入っているのは、黒いベルトと市販のネクタイ。そして、ベルトに紛れて手錠まで入っていた。…しばらく考えた。普通ネクタイを引き出しに仕舞うだろうか?
その時だった。
「―――何してんの?」
背後から暁の声。ビクッと身体が反応した。声のしたほうに振り向くと、暁がトレイにコーヒーカップを乗せたまま、そこに立っていた。暁は静かにトレイをテーブルに置く。
「え、あ、いや……」
そう答える間もなく、暁はこちらに向かってくる。
やばい、怒ってる―――そう思って、殴られると感じ、反射的に目を閉じた。
しかし、そんな気配はない。
「!?」
暁に強く抱きしめられると、勢いよくベッドに押し倒された。両手を強く押し付けられ、起き上がれない。
「ちょっ……あき―――」
「見ちゃった?」
暁が言った。
「え……」
彼の顔が近づいてくる。近づいた顔はやがて、耳元へ。そして囁く。
「見たよね……アレ。」
「……ご、ごめん、見た……」
「ああいうの、興味あるの?」
「は?」
間髪入れず、耳元に生暖かい感触。暁の唇が、康太の耳たぶを包んでいた。耳元でクチュッ……と鳴る。
「……!!」
康太は身をよじった。しかし、どれだけもがいても、康太の手は暁に絡め取られていく。不意に耳元から唇が離れた。解放されたと思った瞬間、今度は唇を重ねられた。
「!」
唇から逃れようと、再びもがいたが、暁に押さえられた身体は思うように動かない。そればかりか、康太の口内に舌が入り込んできたのだ。
「……うっ……ん……」
力が抜けていくのを感じた。快感すら感じてしまっている。下半身が熱い。今までこんな感覚があっただろうか?
「は、あ……」
暁から唇から離れた。彼は微笑んでいる。
「やっと落ち着いたか。」
なんて返せばいいのか分からず、康太は頷いた。しかし、両腕は繋がれたままだ。
「康太、拘束プレイってしたことあるか?」
「……え。」
「俺、こうやって縛り付けるのが好きなんだよ。他の女とヤッてもどうしても怯えちまったり、変な噂流されたこともあってさ。」
康太はもはや、抗うことも出来なかった。自分の身に起きたことも、暁が話している内容も、ついていくのにやっとだった。そして、暁の行為を受け入れてしまった自分さえも、何もかもが分からなくなっていた。
「康太は、俺の秘密を見ちゃったからな。」
暁はそう言うと、康太の頭上で両手を右手で戒めた。空いた左手が、康太の下半身へ伸びる。彼は足を閉じようとしたが、叶わなかった。暁の足が康太の足の間に入り込んでいたために閉じることが出来なかった。そして、暁は康太のジーンズのジッパーをおろした。すると、硬くなった恥部に、直接触れる。冷たい指先が触れると、ぬるぬるとした感触が全身を駆けた。
「やっ……!」
「すげぇ……もう起ってる。」
悲鳴とも喘ぎともつかない声。戒められた両手をほどこうと足掻いてみるが、暁の力には抵抗できなかった。
「あきっ……あぁっ……!」
「なんだよ、まだこれからだぞ?」
しかしそう言いながら、暁は手を止める。
「……?」
「さっきのアレ、まだ使ってないからな。」
暁は身を乗り出して、引き出しから手錠を取り出した。慣れた手つきで康太の手首を掴むと、手錠を嵌める。
「どう?初めての手錠。」
暁はイタズラっぽく笑った。康太は、完全に彼のペースに乗せられてしまっていた。
「僕、悪いことしてないのに……」
「悪いことなら、さっきしたじゃんか。」
そう言うと、暁は背後に回る。彼の手にはネクタイ。暁はネクタイを康太の前に見せた。
「康太、なんでネクタイが此処にあるか分かるか?」
「さ、さぁ……何でなんだろうね。」
わざとらしく、とぼけてみる。嫌な予感しかしなかった…。
「こうすんだよ。」
暁がそう言うと、康太の両目を隠すようにネクタイを巻いた。視界が闇に包まれる。康太は、もう何も抗えないことを悟った。そして暁は、おもむろに康太のワイシャツのボタンを外し始める。康太の薄い胸板をまさぐり、暁の指が胸の突起に触れる。
「ぅんっ……く……」
そして、暁は再び康太の耳朶に甘い息を吐く。康太の身体がのけぞった。
「感じてるんだな、康太。」
「か、感じてなんか……」
暁は二つの指で突起を撫でた。そして、その手は康太の下半身へ。康太のそれは、先ほど同様に硬くなっていた。暁の手に、それが包まれる。ぬらついて、滑らかな動きへと変わった。
「あぁっ……!は、く、んっ……!」
康太の呼吸が荒くなる。下半身が熱を帯び、身体全体が快感を欲している。暁はゆっくりと、康太を寝かせた。そして、暁は康太の身体を眺めてくる。
「手錠に目隠し……康太ってエロイな……」
「そ、それって褒めてるの……?」
「まぁな。」
そう言うと、暁は康太に優しくキスをした。そして舌を絡ませる。舌から、胸の突起へ。そして、暁の舌が康太の胸の突起を這う。身動きが取れない康太は、ひたすらに身をよじった。
暁は康太の下着を下げ、足を広げる。すると、彼の恥部が露わに…。暁は康太の恥部を口に含んだ。
「あぁっ……!やぁ……!」
暁は動きを止めない。康太の下半身は、さらに熱を帯びてくる。
「あ、はぁ……ん……」
さらに手の動きが加わった。唾液まみれの恥部は、さらに快感を与えてくる。
「んあ、あぁっ…!!暁……僕、もう……!」
「我慢してないで出しちまえよ、康太。」
その時、不意に視界が明るくなる。暁が目隠しを解いたのだ。
「え、暁……?」
「イク時は顔を見せろ。」
再び彼は康太の恥部を口に含んだ。足は開かれていて、閉じることが出来ない。両手は手錠で拘束されているから、顔を覆う事も出来ない。
「はっ……ん……」
暁の指先と手のひらが、恥部をなぞってくる。康太は再び喘ぎ、絶頂に導かれてしまった。
―――やがて、絶叫に似た声をあげ、康太は果てた。
**
ゆっくりとした、静かな寝息を繰り返している。手錠を外された康太はすっかり疲れてしまったのか、眠っていた。康太の寝顔を横目に、暁もベッドに横たわっていた。
……初めてにしては、過激すぎたか……?
なんて、暁は一人、考えを巡らせる。暁は気づいていた。俺は、心のどこかでずっと康太のことが好きだったのかもしれない。だから、今日は自分の家に呼んだのだ。
告る前に、身体の関係持っちまったなぁ……
暁が康太の頬に触れた、その時だった。
「ん……」
ゆっくりと康太が目を覚ます。寝ぼけ眼で暁を見る。
「あれ……僕……」
「起きたか。」
「ごめん、寝ちゃってたみたい……」
「気にするな、よくある事だから。」
「う、うん……」
お互いに何を話せばいいのか分からず、沈黙が流れた。
「ねぇ、暁。」
「ん?」
「僕たち、付き合ったってことになるのかな……」
暁は考えた。いっそ自分の気持ちを伝えてみようか、なんて。
「康太。」
暁は、康太を見つめた。
「俺は、康太が好きだ。もちろん友達以上の関係としてな……お前はどう思う?」
「僕は……」
康太は暁の瞳を見つめ返した。
「僕も、暁のことが好き……です」
「……何故、敬語。」
「だ、だって……恥ずかしいんだもん……」
「まぁ、いいや。」
暁が康太の頬をそっと撫で、その手に康太は自分の手を重ねた。
「暁の手、温かいね。」
彼が微笑む。そして、唇を重ねた。
「これは、俺たち二人だけの秘密だな。」
「うん。」
暁と康太はお互いに抱きしめ合う。そして、満ち足りた表情で目を閉じた。
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