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純愛

忍び寄る指先〜もう抜け出すことはできない

 熱い。タクミの長い指に触れられた太ももが、じわりと熱を持った。

 そんなはずないのに、太ももが熱でピンク色に染まってしまった気がして、それを確認するために上半身を起こそうとした。なのにタクミに肩を押され、簡単にベッドに押し付けられてしまう。

 どうやったってこの人には勝てない。

「サキ、何か気になるか?」

 私が上半身を起こそうとしたのが気になったのか、太ももを触りながら聞いてきた。もう素直に答えるしかなさそう。

「そうやって触られると、すぐ熱くなっちゃう。」

「サキ、俺が触るとすぐ興奮しちゃうもんな。」

「あ……っ!」

 太ももを撫でていた手がゆったりと移動し、タクミの中指が、既に濡れているまんこにゆっくりと侵入してきた。

「んぅ……っ」

「まだ動かしてないじゃん、指1本入れただけで気持ちいいの?」

「ちがっ、まだ、気持ちよくな…」

「じゃあいっぱい動かしてやるよ。」

 柔らかく暖かい指が、中を傷つけてしまわないように、優しくぐちゅぐちゅと動き出す。

「あっ、あぁ……んっ」

 声を抑えようと手で塞いでも、タクミにすぐに退かされてしまう。サキは諦めてそのまま声を出し、その大好きな指の感触を中で味わった。

 大学の友人の付き添いで行った、合コンで知り合ったタクミは、穏やかで無害そうな見た目とは裏腹に、かなり性欲が強い。合コンのあと、そのまま勢いでラブホに向い、初対面で汗だくのまま3回戦し、身体の相性がいいからまた近々会おうよ、簡単な口約束と連絡先を交換し、その日は解散した。

 その5日後、タクミから連絡がきたのだ。合コンの日に入ったところと同じラブホに集まり、あの夜と同じくらいの回数交わって、終わったら速攻で帰宅した。

 そんな関係を始めてもうすぐ3ヶ月。どちらからも付き合おうと言うことはなく、ただ週に1回セックスをするだけという、わかりやすいセフレの関係。

 初めのうちはそれでよかった。なのに、最近なんかおかしい…。

 タクミに触れられた部分が、じんじんと熱を持ってしまい、まるで、身体全体が支配されているかのような気持ちでいっぱいになる。

 最初のうちは気のせいかと思っていたが、回数を重ねるごとに、そのじんじんとした熱は、ただの熱ではなく、何か違うもののように思えてきた。

「もっと触ってほしい?」

 腰をびくびくと揺らす私の反応をおもしろがって、わざと指の動きを止めたタクミに、意地悪く聞かれる。
 
 出会って3ヶ月になる今日、私はタクミにちゃんと言わないと。タクミに触られるたびにじんじんするのは、タクミのことが好きだから、熱をもってしまうのだと。

「触って……中、もっとぐちゅぐちゅにして。好きだから。」

「好き?」

「好き……タクミのこと、好き。」

 勇気を振り絞ってそう言った。なのにタクミは何も答えず、ただ口角を少し上げて笑ってみせた。そして、さっきより激しくまんこを弄り始めた。

「あっ、あぅ……っ、はげし、いッ」

 いつの間にか人差し指も入っていて、2本の指がぐちゅぐちゅと愛液を泡立たせている。はあはあと半開きになっている私の唇の近くに、タクミの唇が触れた。またそこもじんっ、と熱を持ち始める。好きだ、好き、指で触れられても、唇で触れられても。全部、全部心地いい…。

「も……っ、入れて。」

 中をかき混ぜる音を聞きながら懇願すると、タクミはあっさりとまんこからその指を抜き、素早くちんこにゴムを被せた。

 あれが私の中に入るの、もう何回目だろう。会うたび最低でも2回戦はしているから、もう大体……数えようとした次の瞬間、硬いものが、奥を抉るような勢いで、まんこに入ってくるのを感じた。

「ぁあああっ!」

「よそごと考えないの。」

「なんっ、で…」

「目の動きでわかる。バレないと思った?」

 ほわほわとした見た目でいかにも天然そうなのに、タクミはときどきすごく鋭い時がある。その鋭さを持つ人間が、私の好きな温かい指の持ち主と同一人物なことを、今でもたまに疑うことがある。

「あっ、あっあんっ、あっ!」

 連続で奥ばかり押され、そのたびに耳を塞ぎたくなるような、甘ったるい声が漏れてしまう。タクミは、私が喘げば喘ぐほどピストンを早くするのだ。それがわかりやすくて、おもしろい。タクミの指に興奮する私と、私の喘ぎ声に興奮するタクミ。

 私たちの未来はきっと明るい。

 血管が張り詰めているちんこが出入りするたび、全身の血がとんでもない勢いで駆け巡り、頭が真っ白になる。

 この行為をご褒美に、私は大学の講義を休まず受け、バイトに勤しんでいる。これがなくなったら、私は人間を保てるだろうか。そんなことを考えてしまうようになっていた。

 限界が近いのか、タクミの腰の動きがさらに速くなっていく。私はそのピストンの衝撃と、強すぎる快楽に耐えるため、タクミの手を取り、大好きな暖かい指に触れた。指と指を絡ませ恋人繋ぎのようにすると、頭が沸騰しそうなくらい熱くなり、新たに分泌されたサラサラの愛液が、とろりといやらしく、まんこから垂れた。

 タクミの腰の動きが遅くなり、薄いゴムのなかに射精したことを察する。絡ませていた指を離し、ゴムを外し、その口を結ぶのを、サキはぼーっとしたまま見ていた。

 あ、さっきの返事聞かなきゃ。

「タクミ、さっき言ったことなんだけど。」

「ごめん。俺付き合ってる人いるから。」

 行為後の多幸感でぼーっとしていた頭にがつん、と重たい石を投げつけられたような感覚。そのまま石が埋め込まれたように頭が重くなり、サキはしばらくベッドから動けそうになかった。

「それに、俺たち最初からそんなんじゃなかっただろ。」

「そう、だね…」

 そのまま泣きそうになるのを堪え、タクミの顔も指も、できるだけ見ないようにしながら私はシャワールームへと駆け込んだ。

 私は忘れることにした。

 タクミという男など知らない、と思い込んで生きていくことにしたのだ。

 あの日以来連絡も取っておらず、何をしているかすらも知らない。

 そして、サキは大学を卒業し、同じ職場で知り合った男と付き合い始めた。明け方で薄暗い彼の部屋にあるベッドの上は落ち着くし、今気遣いのできる優しい男だ。触れ合っていても、私はあの日のようには濡れることはない。タクミの声ですら上手く思い出せないのに、私に優しく触れるあの指の感触だけは、頭から離れてくれやしなかった。私は何を求め、どんな人生を歩みたいのだろう。そうやって、時々自問自答することがある。

「サキ、どうしたの?」

 ぼーっとしているところを、後ろから抱きしめられる。温かい、だけど、温かい以外何もない。

「……ごめん、今はひとりにして。」

「ごめん。わかった。」

 その次の週末、私は1ヶ月住んでいた彼の家を出た。タクミが今どこで何をしているかの情報が、たまたま友人から送られてきたのだ。もう忘れたと思っていたのに、情報を知ってしまったら、身体が勝手に動き始め、家の中の荷物をまとめ始めていた。

 夜22時、送られてきたバーの前に立っている。重たい扉を押し、ゆっくりと中に入っていく。店内には他の客は誰もいなかった。

「いらっしゃいませ。」

 落ち着いた声。忘れていたはずの声なのに、その声を聞いた瞬間に、ちゃんと思い出すことができたのだ。昔よりも長くなった前髪の間から見える、切長の目。

「タクミ……」

 カウンターの向こうにいるタクミは目を見開き、持っていたグラスを机に置いた。

「サキ、どうして。」

「たまたま通りかかったの。お酒、飲みたい気分だったから。」

 そんなの嘘だ、でも、嘘だっていい。

 ジントニックを1杯だけ飲み、その日は早めに店を閉めてくれた。タクミの家はバーの近くにあり、玄関で靴を脱ぐと、何も言わず優しく抱きしめられた。この指だ…。毎日シェイカーを振っていても、昔と何も変わらない。私の服に手を入れられ、それからゆっくりとおっぱいを揉みしだかれる。

「あ……んッ」

 ひさしぶりの感覚。私がずっと、追い求めていた感覚。もうこの指の動きからは逃れられない。

「もう、店にいる時からヤりたくてしかたなかった。」

 耳元でそう囁いたタクミは、乱暴に私のスカートと下着を脱がせ、廊下の壁に手をつくように言う。後ろからぐちゅぐちゅとまんこを弄られ、今までで一番濡れているのを感じた。

「あん……もうっ、ほし、いっ…」

 そう強請ると、タクミはかちゃかちゃとベルトを外し、鞄から取り出したゴムをちんこにかぶせる。そして、私の腰を掴み、後ろから一気に入れてきた。

「ぁあああッ!」

 腰を掴む指が、ひどく優しい。何度もタクミと交わってきたが、こんなに優しいのは初めて。挿入してから少し馴染ませ、それからとんでもない勢いで、腰を打ち付けてきた。

「あっ、あっ、あっっぁああッ!」

 突かれるたびに、口からだらだらとよだれが垂れ、後ろを振り向くと、タクミがそれを器用に啜ってくれる。そのまま唇を重ね、ぐちゅぐちゅと水音を立て、舌を絡ませあった。腰の動きが速くなり、それにつられるように、私もくねくねと腰を揺らす。立ったままだからか、脚もガクガクしてきて、すぐにでも座り込んでしまいそう。それをぐっと堪え、後ろからの快楽をただただ享受していく。

「んあっ、あっ、タクミっ、タクミ、好きっ。」

「サキ……っ、俺も、好きだよ。」

「……っ! 今、なん、て……っ」

「好きだ、サキ……っ!」

 そう言ってタクミは全身の力を込めて、私の奥を抉るように突いてくる。好き、好き。タクミからずっと聞きたかった言葉。私にやっと好意を向けてくれたんだ。それだけでこんなにも胸が苦しくなって、涙が溢れてくる。

「あ……っタクミ、好き……ぁああッ」

 まんこがぎゅっと締まり、タクミの射精を促すような動きをしてしまう。腰を掴む指があたたかくて、そこに集中すると余計になかが濡れ、とろとろと愛液が床に溢れていく。次第に肌と肌がぶつかり合う音がゆっくりになり、タクミが私の中からちんこを抜いたのがわかった。

「こんな、廊下でするの初めじゃない?」

「たしかに……どれだけ溜まってたんだよーってな。」

 タクミは笑いながらそう返してくれて、ホッとした。溜まってたのは私だけじゃなかったみたい。

 一緒にシャワーを浴び、ベッドに横になる。タクミは、「今誰とも付き合っていない、だからよかったら付き合ってくれ」と真剣な顔でサキに言った。

「もう、曖昧な関係はやだよ」

 そう囁いてタクミに抱きつくと、大好きな手が私の頭を撫でてくれた。

 私はもう、抜け出すことはできない。

 どこにも行かないし、行けない。

 この指の温もりだけが、私を興奮させてくれるから。

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Akari

皆さま、読んでくださり、ありがとうございます!順次新作をお届けしますので楽しみにお待ちください! 【おすすめ掲載】 ・打ち上げ花火に照らされて(純愛) ・僕たちの初恋(BL) ・夏の暑さに酔いしれる(不倫)

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