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純愛

忘れられないあなたとの一夜 

 社会人ともなれば、仕事に終われる日々で、やりたいこともできぬまま、行きたいところも行けぬまま時だけがすぎていく…。もちろん私も、その例外ではない。
4月に新社会人として入社し早半年。あの時はもう、桜なんて咲いていなくて。自分の幼い頃と比べると「変わってしまったな。」なんて思いながらも、真新しいスーツに身を包む。そして、新たな生活に心をおどらせたあの頃は、こんなに忙殺されるなんて思ってもいなかった。
「……今日もコンビニでサクッと済まして寝ちゃおう……。」
 こんな思考で日々過ごしており、“女”なんて忘れていた私。もちろん彼氏もおらず、なんというか、…そう、俗に言う『ご無沙汰状態』なのである。いやまぁ、私も人間だし、たまーーーにこう、なんだかムラっとくる事はあるけど、なんせ相手もいなければ、機会もないのだ。
(最後、そういう感じになったのはいつだったっけ……。)
 コンビニで買った、値引きされていたお弁当からご飯を口に運びながら、記憶を思い返してみるけれど、全く思い出せない。まぁ、そのくらい、そういったことに縁がないということなのだ。
疲れているせいか、やけに変なことばかり考えるなあと思いながら、身を睡魔に委ね、その日は眠った。
***
「……仮面BAR?」
「そう!最近instagramで話題になっててさぁ!雰囲気良さそうだし!」
「い、いや……私はいいよぉ……忙しいし……。」
「そこをなんっとか!!!親友のよしみで♡」
 後日、社員食堂にて昼食をとりながら、大学からの友達であり、同僚にもあたる紗香に頼み込まれていた。というか、同じ新卒新入社員のはずなのに、SNS巡りなんてよくやってるな。私は昼食のトンカツを咀嚼しつつ、なおも語り続ける紗香の話を受け流していた。
「……ね!いいでしょ!」
「…はいはい…………ん?」
(やっっっっっっちまった〜〜〜〜〜!!!!!)
 こうして己のうっかりさが故に、私はよくわからないBARへ行くこととなってしまったのだった。
 用意するのは身分証のみと言うことだったので、小さなバッグに化粧ポーチとお財布、ポッケにはハンカチ、と最低限の用意で向かった。仮面は現地でスタッフから渡されるらしい。身分証も見るのはスタッフのみで、BARにさえ入ってしまえば、あとは提示する必要はないそうだ。私は待ち合わせ場所で、紗香を待った。ものの数分で紗香は現れ、私たちは目的地へと向かった。
 紗香は、誘ってきた割には、「いつ帰ろうかな…」と自由な様子であり、内心苦笑した。ただ、「いつでも好きな時に帰ってもいい」と言われていると思えば、気が楽だった。さっさと帰って、ドラマでも見ようかなぁ、なんて思いを馳せていた。
「ここだよ、ここの地下。」
 紗香に連れられるまま、あっさりとBARに入る。「お好きなところへどうぞ。」という(多分)バーテンダーの1人に言われるまま、私たちはカウンターに座った。「何にされますか?」と聞かれ「ハイボール。」と小さく告げると、ご機嫌な紗香を横目に、室内を見渡した。
「仮面をつけてること以外は、結構普通のBARだね。」
「そうだね、安心した。なんか変な取引とか始まるのかと思った。」
 私はキンキンに冷えたハイボールを流し込みながら、バーテンダーと話す紗香の会話を聞いている。すると、近くの席に座ってきた、ロックを流し込む男性が気になってしまった。パリッとしたスーツ、猫背ではないがやや丸まった背筋、人と会話するでもなく、淡々と酒を口に運ぶ姿が、なんだか寂しく見えた。
「何、気になるの?」
 ニヤニヤ顔の紗香の声で、現実に戻った。知らぬ間にぼーっとしてしまったらしい。
「そんなんじゃないけど……。」
私はモゴモゴ言いながらハイボールを喉に流し込んだ。グラスを口から離す前に、ふともう一度男性に目を向けると、こちらの様子に気付いたのか、バチっと目が合ってしまった。
「こんばんは、何か僕の顔についてましたか?」
「いっいやいや!!!すいませんすごくみちゃって!!」
「ははは、気にしてませんよ。良ければ一緒にどうですか?」
「あ、私友達ときて……て……。」
 と後ろを振り返るとそこには誰もおらず、私は喉がヒュッと鳴るのを感じた。紗香め、一体どこに…と視線を泳がせると、少し離れたカウンターで、バーテンダーと談笑しつつ、お酒を楽しんでいるのを見つけた。
 私がここで断るのも意味わからないし、そもそも自分が彼を見つめていたことが、全ての始まりだった…。観念して「私でよければ……。」と思わぬ形で、私はドラマの続きを見逃すことになった。
「……へぇ、今年就職なさったんですね、忙しく女も忘れそう、と。」
「そぉなんですよ!枯れちゃいそうで怖いですよ。」
 緊張してろくに話ができない私に、彼…橘はあれこれ質問しながら、緊張をほぐしてくれた。徐々に楽しくなりお酒がどんどん進んでいく。はじめましての人に普段絶対言わないようなことまで口走る私の話を、橘さんはニコニコしながら、聞いてくれていた。
ぐでんぐでんに酔ってしまった私。そんな私に、相槌を打ちながら話を聞いてくれていた橘さんが、口を開いてこういった。
「思い出させてあげましょうか。」と。
その時私は、胸が高鳴ると同時に、小悪魔になった。
「できるんですか?」
挑発的に言った私に、橘は噛み付くようにキスしてみせた。
「今のであなたがときめいてくれたなら、もう僕の勝ちです。」
 ここが店の中で人に見られてるかもしれないとか、今日はこんなつもりじゃなかったのになとか、大人の余裕ずるいなとか、頭の中がいろんなものでぐちゃぐちゃになっていた。でも確かなことは、私はあのキスでときめいてしまったし、お腹の下あたりがキュンと切なくなってしまった。あぁ、私は今この人に抱かれたいって思ったんだ。
「……負けました。」そう小さく言うと橘はにっこり笑った。
 そこからの記憶は曖昧で、橘に腰を抱かれてホテルイン。悶々としながらシャワーを浴びる。バスローブに身を包んでベッドに戻ると、入れ変わるように橘はシャワールームへと消えて行った。ドキドキしながら待つのは、いつもの五倍くらい長く感じた。
「お待たせ……テレビでも見ていたらよかったのに、じっとしていたのかい?」
 そういうと、橘は私の前髪をあげ額にキスする。目が合ってしまい、改めて橘の顔を見る。
「……そんなに見つめないでくれないか。緊張しているのがバレてしまいそうだ。」
「緊張してたんですか?」
「もちろん、君に思い出させると言ったときから。」
 実は、橘はずっと緊張していたのだ。そう思うと途端に愛しさが湧き、私はぎゅっと橘を抱きしめた。それを合図とするように、橘はそっと私を押し倒す。2人分の体重がかかって布団が深く沈む。顔中にキスの雨がふってきて、照れくささやくすぐったさに「ふふ、」と笑う。お構いなしにキスがふってきて、唇が重なった瞬間…私の頬を包む手に、力が籠った。
ちゅ、ちゅ、と触れ合うだけのキスを繰り返していると、橘は私の下唇を自身の唇で喰んだ。そのまま流れに任せていると、今度はそのまま口を開かれる。その開いた口から、ぬるりと湿った橘の舌が侵入してきた。
「んぅ……。」
鼻から抜けるような声が出る。呼吸も忘れるくらいゆっくりなのに、熱いキスは初めての経験で。思わずギュッと橘の首に回した腕に、力がこもる。果たして人生の中でこんなにキスに時間をかけた行為をした事があっただろうか?その間も橘は、私の頭を優しく撫でてくれる。すると、力の入っていた腕がふと緩んだ。
頭を撫でていた手が首筋を撫で、胸を通り過ぎ、腹を優しく撫で脚に触れる。いやらしいところを避けられてるはずなのに、背中の辺りがゾクゾクして、下腹部がキュンキュンする。…なかなか、気持ちいいところは触れそうで、触れない。
「ずるい、わざと?」
「ふふ、どうかな。」
そういうと橘は、余裕ありげに笑ってみせた。優しく慣れた手つきにドキドキが止まらない。そんなことを考えていたら、手がキュッ、と優しく胸の飾りをつねる。つねると言うとなんだか痛くきこえるけど、痛いなんてことはなく、私は思わず声を上げてしまった。それに気をよくした橘は、またキュ、キュウと弄ぶ。その度にピクと体が反応し、下腹部に熱が籠っていった。
鎖骨あたりで遊んでいた橘の唇が徐々に下におり、優しく胸に触れる。そのまま唇と舌で弄ばれて甘い声がひっきりなしに上がる。息も荒くなって快感にうっすらと涙さえ浮かんだ。
 橘はそんな私の目尻を優しく拭うと、優しくキスをし、足の間に潜り込んだ。「あ、」と声を上げる頃にはすでに、橘の口は私の太ももをゆるく噛んだり、舐めたりと動いていた。
そのまま舌が秘部辺りで散歩し始める。くぱ、と開かれると、羞恥で真っ赤になってしまい、手で隠そうとしてしまう。普段誰にも見せないところを、見られ、舐められているのだ。気持ちよさと恥ずかしさとで、爆発してしまいそうだった。そんなことはお構いなしに、ねっとりと小さな芽を舌で舐り、食み、刺激し続けてくる。
「も…、そ、そこだめ、そんなしないで…」
 嬌声の合間にやっと紡げた言葉は、主語もないような言葉で、おかしくなりそうな程の快感の波に溺れ、飛んでしまいそうだった。そんな私の言葉をきいて、橘はそこから口を離す。橘の長く強張った指が、指つぷりと音を立て、私の中に飲み込まれていく。手前の上の方をぐーっと押してくる。押して緩めてを繰り返し、たったそれだけで、出し入れもされていないのに、腰が跳ねるのを抑えられなかった。
ギラギラした雄の目をした橘に見下ろされながら、感じる。口付けられると同時に、指が奥まで入り込む。一際高く、大きく上がった嬌声は、橘の口に吸い込まれていった。さっきとは打って変わって、卑猥な音をさせながら、かき混ぜられている。
「ん!ぁあ……っふ、」
 キスの合間に声が漏れる。そして指が引き抜かれ、さっきまで秘部に唸っていたそれを、目の前で舐めるのを見せられ、沸騰しそうなほど熱くなってしまった。思わず目を背けると、小さく笑うのが聞こえ、ゴソゴソと何かを探す音が聞こえてきた。
橘は慣れた手つきで避妊具をつけると「大丈夫?」と耳元で聞いてきた。うん、とか言えばいいものを、恥ずかしさに負けて、私は自分からキスして、そのまま腰に、自らの脚を絡めた。それを合図とするように立ち上がった橘が、グッと押すように挿れてくる。十分に気分が高まっていたとはいえ、それでも、圧迫感で息が止まりそうになる。橘は奥まで挿れたあと、私の呼吸が落ち着くのを待ち、ゆるゆると動き始めた。
(あぁやばい、気持ちよすぎる。)
 時間をかけてゆっくり高められた身体は、待ち望んだ大きな快感に喜び、ナカを締め付けてしまう。その度に、橘が目を顰めて小さく声を漏らす。なんだか嬉しくなって、涙が出る。気持ちいいし、こんな大事にされるSEXなんてしたことなかった。
奥を突かれるたび気持ちよくて背中がのけ反る。
「ゃ、ま、ゃだ、おく、奥ばっかり、それきもち、い、だめ、イく、それイっちゃうっ……!」
 気持ちいい、やめて欲しくない。でも気持ちよすぎて怖い。もうすでにぐちゃぐちゃになってる私に、橘は優しくキスして、耳元で囁いた。
「怖くないよ、イっていいよ。」
耳元への刺激と、イくことを許されたことで、私は激しく身体を痙攣させ、イってしまった。優しい橘のことだから、休憩させてくれると思ったが、私がイってもその律動は止まらず、頭の中が真っ白になってしまった。そんな状態で、必死に頭を横に振る。
「イった、イったの、ね、ねぇ待って、イってる、止まんなくなるからぁ!」
「ごめんね、こっちも限界なんだ……っ。」
 緩めずに与えられ続けた快感によって、イきっぱなしになってしまった私は、もう橘が果てた後には、頭の中のヒューズが切れたんじゃないかと思うくらいの大きな虚脱感に苛まれた。
「だ…だめ…」
心なしか、優しい声に甘えるようにして、私は意識を飛ばした。
***
たまたま出会った男性とのその一夜は、初めてが多すぎて、まるで処女に戻ったかのようだった。
私はこれからもずっと、この一夜を忘れないだろう。

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Akari

皆さま、読んでくださり、ありがとうございます!順次新作をお届けしますので楽しみにお待ちください! 【おすすめ掲載】 ・打ち上げ花火に照らされて(純愛) ・僕たちの初恋(BL) ・夏の暑さに酔いしれる(不倫)

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