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不倫

いけない関係とわかっていても

 フライドパスタを口に運び、パスタの油を押し流すようにレモンサワーを飲む。

 妊活中であることを気にせず、今日は思いっきり食べて飲む日だと決めていた。しかし、揚げ物ばかり頼んだから、さすがに明日胃もたれするだろうな…なんて思いながら、早々に届いた唐揚げに、レモンをかけていく。

「千香って見た目の割によくお酒飲むよねー。」

 同期のユリが揚げ物についているレタスをもしゃもしゃと食べながら言った。私もユリも看護師で、ストレス発散が暴飲暴食な点が一緒で、よく飲みに行っている。元々結婚前はコリドー街の常連だったけど、最近はどんなお店でも楽しめるようになってきた。

「ユリもでしょ。てか今日、長谷川さんくるんじゃなかったっけ?」

「なんか長引いてるらしいよ。あと30分くらいかかるって。」

「そう。」

 長谷川さんは私と同じ病棟で働いている外科医だ。かなり忙しくしていることで有名で、1週間のほとんどを病院で過ごしており、病院が家だと笑いながら話してくれた。あまり冗談っぽく聞こえないのが、怖い。

 4年前に職場で知り合い結婚した旦那との生活は、正直退屈だった。職場は一緒だが、職種が違うから全然休みが合わない。見た目よりも中身で選んだわりには、そこまで優しくない。ましてや、4年間地道に頑張ってきている妊活も上手くいっていないのだ。家で一人でいるのも気が滅入る。人と飲んでいる時が一番ストレス発散になるし、何より楽しいのだ。この瞬間だけは、全て忘れられる。

 ほぼ料理が揃った頃、すらっとした男性がこっちに向かって歩いてきた。

「長谷川さんこっちこっち!」

 ユリが呼ぶと、にこっと笑って、空いている私の隣の席に座ってきた。今日も忙しくしていて、この時間だとヘトヘトなはずなのに元気そうに見えるから、とんでもないスタミナの持ち主なんだと思う。

「ごめんね、遅くなっちゃって。」

「全然!ちょっと私お手洗い行ってくる。飲み物ついで頼んでくるね。」

 ユリが立ち上がり、お手洗いに行く途中店員さんを呼び止め注文しているのを遠目に見ながら、そこらへんにある皿を長谷川さんの前に移動させた。

「ありがとう。千香ちゃんさ、疲れてない?」

「長谷川さんの方が疲れてませんか?」

「疲れることばっかだよな、毎日。」

 長谷川さんは既婚者だけど指輪をつけていない。前に、なんかの拍子に無くしたら嫌だから、とかなんとか言ってた。思いやりのある男性だ。奥さんのことも、おそらくすごく大切にしているのだろう。

 わかってる、私も彼も結婚してるってわかってるのに。それでも思いは止まらなかった。

「最近家ではどう?」

 えだまめを適当につまみながら、長谷川さんが投げかけてきた。

「旦那と休みが合わないから、なんだかこの最近刺激がなくて。」

「旦那さん忙しいんだっけ。」

「うん……なんか、毎日が平凡で。」

「セックスは?」
「あんまり……え?」

 あまりにもサラッと言われたから、聞き返す間もなく答えてしまった。既婚者の口から出てくるような言葉じゃない。なにそれ、私たちがセックスするはずないのに。

「…そっか。」

「ただいま〜」

「おかえりユリさん。俺もちょっと行ってこようかな。」

 ユリがお手洗いから戻ってきて、入れ替わりで長谷川さんが席を立った。

「長谷川さんと何話してたの?」

「仕事のこと。職場離れてもその話になるの、長谷川さんって感じ。」

 嘘だ、でもセックスの話を振られただなんて、どれだけ仲のいい同期に対してでも、さすがに言えなかった。レモンサワーを追加で頼み、届くまでまたそばにあるものを摘み始めた。

「そういえばさ、千香に頼みたいことがあって。」

「どうしたの?」

「長谷川さんの事が気になっていて。協力して欲しいの。」

 がたん、と椅子が揺れる音がした。音がした気がしただけで、実際は立ち上がってもいなかった。そのくらいの衝撃で、驚いたんだと思う…。

「結婚、してるのに?」

「別にいいじゃん。なんか奥さんとも上手く行ってないらしいよ。長谷川さん休みができてもスポーツばっかりしてるって。私も身体動かすの好きだからさ。」

「やめておいた方がいいよ。」

 自分にしてはありえないくらい、きつい声を出してしまった。誤魔化すように、届いたばかりの酒を口に含んだ。甘めのレモンサワーなのに、すごく苦く感じる。なぜなら、今から嘘を言うから。

「さっきさ、仕事の話と一緒に家族の話もしてて。奥さん、妊娠したんだって。思ってるよりも上手くいってるのかもよ、ユリが知らないだけでさ。」

 なんて、すらすらと嘘が出てくる。ありえない。普段の私は優しい嘘でさえもつけないのに、こんなにも自分にとって、敵になりそうな相手に嘘がはけるなんて。今まで知らなかった自分の姿に驚く。

「そっか……子どもできるなら、絶対近づけないね。」

 ユリがしょんぼりした顔をしながら言う。私もできるだけ、残念そうな顔をしてあげた。

 夫にどれだけ触れられても、もう一切ときめかない。ただの子どもを作るための行為でしかなかった。

「はあ……はあ……っ、千香っ、出すよ。」

 ぱちゅんぱちゅんと肌と肌のぶつかる音がうるさい。夫の腹がぷるぷると揺れている。だらしない身体だ。これが趣味がスポーツの長谷川さんなら、もっと引き締まってて胸筋もあって、なによりちんこももっと太くて硬くて……。

「ぁ……ッ!」

「千香、気持ちいいんだね……俺も……っ」

 なかがきゅんきゅんと小さく収縮し、私が達したことを察した夫が、私の胸を揉みしだきながら腰を振っているのが見える。乳首をこりこりとつまみあげられ、前にその触り方は嫌だと伝えた事を何も覚えていないことに対して、思わずため息が出そうになる。

 さっきの軽い中イキ、あれは夫でイったんじゃない。長谷川さんの身体やちんこを想像してイったのだ。もう夫の身体には、全く興奮しない。

 その背徳感に、もう一度絶頂しそうになった時、うめき声をあげた夫の精液が私の中に広がるのを感じた。

「千香……今度こそこそデキるといいな。」

 私のなかからちんこを抜き、横に寝そべった夫がお腹をさすりながらそう言った。そうだね、って適当に返した。

妊活も夫も、いまはもう考えられない。頭の中はもう、長谷川さんのことでいっぱいになってしまっている。

 夫が眠りについてすぐ、ベッドから出た。スマホの画面を見ると一、件のライン。送り主は誰かなんてわかってる。

『千香、このあとホテル来れる?』

 行ける、と短文のラインを返し、夫が起きてしまわないよう素早く身支度をする。そっと玄関のドアを閉めた瞬間、私は近くのタクシー乗り場まで駆け出した。

 長谷川さんとは、こうやって深夜にセックスするようになった。それは不定期で、いつになるかわからないというところも、余計に悪い事をしている感じがあって興奮する。

 私をベットに押し倒し服を乱暴に脱がせ、下着も剥がされて乳首を吸われる。ちゅぷちゅぷと懸命に吸う姿はすごく幼い子に見えて、思わず頭を撫でてしまいそうになる。少しだけなら構わないかもと思い手を伸ばそうとすると、その手を頭上でまとめられてしまった。こういうところが意地悪、でも大好き。

「今日も旦那としてきたの?」

「して、きた……」

「どうだった?」

「全然、よくなかった……」

「じゃあ上書きしなきゃな。」

 長谷川さんは自分の服を脱ぎ、私の股の間に顔を埋める。既に愛液を吹き出しているのをみて、

「あっ……ぁんッ」

 ぴちゃぴちゃと音を立てながら、既に硬くなっているクリトリスをなめまわされる。それから硬くした舌でつんつんとそこを刺激され、いよいよ声が我慢できなくなってしまった。

「ぁああっ、そこっ、そこきもちいいっ」

 私の反応を見て、中指を濡れたなかに差し込まれる。そのまま指を音を立てて出し入れされる。

「ぁあっ、なか音すごい……っ」

「千香が出してる音だよ。なか、こんなに濡らして……」

「だって、夫よりも気持ちよくて……」

「そんなこと言っていいんだ。ほんとに俺から離れられなくなっちゃうよ?」

 意地悪。意地悪なことばっかり言われる。だけどもう離れられないことなんてわかりきってる。
 
 あの飲み会のあと、長谷川さんは、奥さんとうまくいっていないことをラインで教えてくれた。そして、身体の関係にだけでもなってくれないか、と送られてきた。一度は断ろうかと思ったけど、それはできなかった。今の私の生活には刺激が必要だったから。

 お互い浮気じゃなくて癒しだから、というスタンスを崩さずに、今日も私たちはまぐわう。

「千香、今日は上に乗ってよ。」

 指を抜いた長谷川さんは、私の隣にごろんと仰向けになった。ベッドの近くのテーブルからゴムをとり、長谷川さんの硬くなったちんこに被せていく。腰のあたりに乗っかり、手をよく鍛えられたお腹に置く。

腰を浮かせて濡れ濡れになったあなを、ちんこの先端に押し付けた。

「あ……んっ……」

 ゆっくりと息を吐きながら、ちんこを身体のなかに飲み込んでいく。長谷川さんの亀頭は大きいから、いつも入れる時少しだけ苦しくなる。そこさえ入れば、あとは根本まで一気に入る。今日は騎乗位だから、いつもは入らないところまで咥え込めた。

 長谷川さんが私の手を取る。指と指を絡ませる手繋ぎをするのは、初めてかもしれない。普段されないことをされて興奮しているのを隠しながら、ゆっくりと腰を上下に動かしていく。

「ぁん……んっんああッ!」

 正常位のときは、なかなか当たらない奥にばかりあたり、甘ったるい声が漏れてしまう。長谷川さんの息もさっきより激しくなってきて、興奮していることがわかる。

「千香……っ、うごくの、気持ちいいよ。」

「あっ、あぁ……っ、わたし、もっ気持ちいいっ」

「好きだよ、千香……」

 手を繋いだままそう言われると、勘違いしそうになる。私の身体が好きなだけだってわかってるのに、嬉しくて泣きそうになる。

 私の腰の動きに下からの突き上げも加わって、太ももがガクガクと震える。さっきから中イキしっぱなしで、あとでぐったりしてしまいそう。

「千香……っ出るッ!」 

「ぁああっ!」

 最奥で長谷川さんが果てるのを感じる。いけないことだってわかってる。それでもまだしばらくは、この関係はやめられなさそうだ。

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Akari

皆さま、読んでくださり、ありがとうございます!順次新作をお届けしますので楽しみにお待ちください! 【おすすめ掲載】 ・打ち上げ花火に照らされて(純愛) ・僕たちの初恋(BL) ・夏の暑さに酔いしれる(不倫)

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