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純愛

ターゲットは地味子ちゃん。

多くの青春系の漫画、ドラマで描かれることが多い高校時代の話。ちょっとおしゃれに目覚めたりして、ある意味きっぱり青春を謳歌したいという陽キャ。反対に、なるべく目立つことはせず、それとなく過ごし卒業する陰キャの類とに分かれる。陰キャの部類に当たる私はもちろん後者で、もっと言えば、そつなく大学に入学し、そして卒業し就職したい。そのためには、チャラチャラ遊んでいるわけにはいかないのだ。教室の中で息を殺すように過ごしていた私についた渾名は“地味子ちゃん”だった。不名誉と思う子もいれば、私自身みたいに都合良いと思う子もいるだろう。
今日も今日とて勉学に励み、放課後は、クラスメイトや先輩達が部活に勤しむ中、私は図書室で勉強をしていた。

「……あれ、社会史の資料ない。」

近年、教科書には文字の羅列のみで、図や写真などの資料は資料本にまとめられていた。そのため、教科書を見ていて、これどんなんだっけとか、この人の特徴どんなだっけ(たまにテストで見る“写真の人物を答えよ”対策)とかを確認するためには、教科書と資料とを睨めっこする必要があった。そのため、資料本は勉強には欠かせないのだが、今日は見当たらない。視聴覚室で映像授業があったので、その時に置いてきてしまったか…。視聴覚室には勝手には入れないので、先生に借りないといけないという点も、億劫だった。

「仕方ない、誰か届けてくれるような知り合いもいないわけだし。」

気の進まない重い腰を持ち上げて、鍵を借りに向かった。図書室にずっといるので、本が好きと勘違いしている社会科の先生の、読書部への勧誘を躱し視聴覚室へ。すると、閉まっているはずのドアが、少しだけ開いていた。

(締め忘れかな……?)

先生も抜けてるなあ。と思いながらドアを開ける。ガラッと軽い音がして開いた。
「さっさと回収して図書し……」

「えっ、きゃあ‼︎」

神様、一体全体どういうことでしょうか。私は勉学に励む優良児のはずなのに、とんでもないトラブルに巻き込まれていませんか。しまっているはずの鍵が開いていて、そこには誰か知らないけれど女の子がいて、衣服は乱れている。つまりこれはそれですか。放課後誰もいない教室で、彼女と破廉恥タイム的なそういう奴に出くわした感じですか?!

「鍵しめてなかったの?なに、僕としてんの人に見せたかったの?」

「や、ちが……‼︎」

「というか君誰、ここ普通は人来ないはずなんだけど。」

「……忘れ物取ったら出るのでお構いなく。」

「いいや、気分萎えた。もー君帰っていーよ。」

「えっちょっと……。」

私は授業のときに座っていた席までてくてく歩き、机の下の教科書をしまえるスペースをゴソゴソしていると、あっちでは何やら揉めはじめていた。恋人同士ではないようで、女側が「私のせいじゃない。」とか「待ってたのに。」だとか喚いているのが聞こえてくる。自分には関係もないので、聞き流すように自分の用事だけを済ませてその部屋を出た。もちろん鍵は閉めておいた。……え?というか今更だけど、あの人はどうやってあそこに入ったんだろうか。まあ、考えてもわからないし、早々に考えるのをやめた。
***
「……あの子だれだっけ?」

「は?……あぁさっきの?山崎さん?」

「何年?」

「え!?同級生だよ‼︎でも友達もいなさそうであだ名も“地味子ちゃん”だよ。」

いたとしても目には入らないくらいの薄い印象の女を、高田は思い浮かべていた。目の前の女は、まだぶつぶつぼやいているが、馬の耳に念仏。もう俺の脳には内容まで届かない。面白くもない勉強のためだけに進学させられて、面倒な行事にも参加して、ルックスがいいことが幸いして、女には困らなかった。彼女とか要らないと言えば「遊びでいい。」と。女というのは心底理解できない。でも都合は良かったので遊びまくっていたら“高田くんは言えば簡単に遊んでくれる”という噂が流れた。そのうち空き部屋も用意する子も出てきて、そこまでして俺とすることがステータスなのか、甚だ疑問だった。
ずっと、なんだかチャラチャラしてたり、ギャルだったりで、ああいうタイプとは遊んだことがなかった。ほんの少し、変な興味が湧いた。ああいうやつはどうなるんだろうか、男と遊び慣れていないであろう少女。漫画でもゲームでもどう考えてもモブ扱いのあいつ。

「……ありだな。」

「え、ねぇ聞いてるのって!」

「うっせえなあ。帰れって言っただろ。」

まだ喚き散らかす少女A(名前忘れた)を置いて視聴覚室を後にする。今の目下の俺の興味は“俺に興味のないやつの攻略方法”だった。面白くなかった高校生活、これだ、こういうのを求めていたんだ。なんていうか、ゲームみたいな高揚感。
その日から、情報を集める所から始まった。周りの友人には気が狂ったのかとガチめに心配された。ゲームだからというと「性格悪―w」と笑われた。性格が悪いわけではなく、面白がっているだけである。
***

「……ねえ、なんでいるんですか、私なんかしました?」

「ん?何も?君観察だよ。」

「何も面白くはないから帰ってください。」

なぜか、例の一件の後から私自身のことを嗅ぎ回られ、挙げ句の果てには放課後に居座られるという意味のわからない状況になっている。とりあえず邪魔でしかないのだけれど。何を言ってもずっといるので放置したいのだが、女子からの視線が痛すぎて、最近は平和な休憩時間も過ごせないので、本当に困っている。とはいえ黙って何も言わないし、何もしてこないので、それも余計に気まずい。

「ならさ、辞めてあげるから、次のテスト俺がそこそこ成績取れるように教えてよ。」

「……は、はぁ……?」

さらに訳がわからないことを言いだし、アウトプットは自分の役にも立つので了承し、勉強を教えることにした。何より自分の平和のためである。明日、図書室で。と一言残して、彼は今日は消えた。
翌日、図書室に現れた彼は開口一番こう言った。「教わる予定の教科書家に忘れちゃった。」教わる気があるのか?と思った私は、

「なら今度は持ってきてくださいね。」

と、自分の勉強セットを広げた。すると広げた教科書を閉じられてしまった。

「はい?」

素っ頓狂な声が出る。

「ね、俺の家で教えてよ。」

目の奥が笑っていない笑顔。表情が読めないって、こんなにも怖いんだ。これはどんなタイプの人間でもわかるかと思うが、人の目を見て会話することは、そんなに多くない。思い当たるその時といえば。親に怒られて「目を見なさい‼︎」と言われた時ぐらいではないだろうか。「は、はひ……。」私の体感は「はい。」と言ってしまった。(気持ち的にはほぼ言わされたようなものである)が変な声が出てしまった。

「じゃいこっか。」

バクバクする心臓を整えるべく深呼吸をする。前をてくてく歩く少年は、鼻歌まで歌っている。せめて距離をとって歩いてくれているのが救いだった。高田という同級生の思惑が全く読めない。家は近い上に一人暮らしらしく、親とかは気にしなくていいとのことだったが…、この状況を同級生に見られるのは、非常に困る。
そんな心配をしていたが、案外真面目に勉強の用意をし始めて安心した。

「山崎さんって彼氏いんの?」

「いません。勉強に関係ない質問しないでください。」

「俺のやる気の問題。」

さらさら問題を解く様子を見つつ、(これ私要るのか?)と思いながら様子を見守った。そんなに余裕があるならもっと難しいのを出題してやろうか。というか、この人が成績どの程度かも知らないけど、もしかして成績はそんなに悪くないのではないのだろうか。

「なんで1人なの?」

「気楽だからです。」

「遊んだりしないの?」

「しません。」

「経験は?」

「ないで……あ。」

卓球のラリーみたいに軽いやり取りだったせいで、つい気が抜けていた。まあ適当に相槌を打ってしまったといえばいいのに、顔は嘘を吐かせてくれない。したり顔の高田くんを見て、表情が引き攣った。

「俺さ、君のこと気になっちゃってるんだよね。」

「……なんのご冗談ですか?」

さっきまでどれだけ口が動いても止まらなかったペンが止まった。かた、と軽い音がしてペンが置かれる。そのペンを持っていた手が伸びてきて、前髪を上げてメガネを取られた。硬直したままの私。そのまま手が伸びてきて、頬に触れる。これ恋愛モノで見たやつだ、え、あれって恋人同士が、そういう、時に、のやつではないのだろうか。悲しいな…勉学に関することは頭はよく回るのに、こういうのに関しては、全くもって回らない。

「へぇメガネないのいいじゃん。」

まっすぐ見つめられる。そのまま頬に添えられていた手が肩まで降りてきて、思考回路がショートしてしまう。そして、ぽけっとしている私の肩を優しく押してきた。力の入っていない私の身体はいとも容易く後ろに倒れた。もう思考回路なんて機能もしていないし、回復の兆しも無い。わなわなと私の唇が震えているのがわかる。

「休憩しよ。」

「休憩って…な、」

よいしょと机を横にどけてしまいながら、高田君は笑った。そのまま私に口づけてきてもっとわからなくなってきた。壁ドンならぬ床ドン状態。床に投げ出した両足の間に高田くんの膝が割り込んでくる。ちゅ、ちゅ、と短いキスが降ってくる。脳内が追いつかない私などお構いなしに。

「……からかってやろうと思ってたんだよ。」

コツンとおでこをぶつけて、ポツリと彼は言った。「あぁやっぱりか。」と内心思ったが言い方に引っかかった。この男は今“思ってた”と言った。つまり今は違うということである。そんなことを考えていると、またキスされる。経験などないので固まるしかない私の顎を掴み、口を開かされる。そこから控えめに滑った何かが侵入してきて、それが高田くんの舌であることに気づくまでに、時間はかからなかった。初めての感覚にどんどん意識がぼーっとしてきて、もう考えることも辞めて、彼に身を任せることとした。その思いが伝わったのか否か、すすっと手が滑るように降りていきボタンを外す。薄っぺらい私のお腹に、高田くんの手のひらがぺたぺたと触れる。

「……うっす。飯食ってんのこれ。」

くすぐったくてちょっと身をよじる。そのうちぐいとブラをたくしあげられる。顔に熱が集まる。女性らしい胸の膨らみはほぼなく、恥ずかしくなって胸を隠そうとすると、それを止められる。「隠しちゃうなら縛っとく?」なんて言われ、観念して腕の力を抜いた。見つめられて、ふるりと身体が震え、何もされていないのに突起が立ち上がってしまう。すり、と指の腹でそれを擦られる。「ん、ふ、ぅ……。」そのままちゅと口付けられ、指でいじられ、舌で舐められ。どれも初めての感覚で、ふるふると感じるだけになってしまう。恐ろしいほど優しくて、それが救いでもあった。経験のない私は自分からなにかするなんて到底無理で。そもそもなんでこうなったんだっけすら思う。(ああでも、もういいか。)なんて思いつつ腕を伸ばしてみると、高田くんの目が大きく見開かれる。そのままキスされる。キスしながら腕がスカートに伸びた。

「脱がさないのって逆にエロくね?」
そう言いながら、どんどん奥に手が伸びてきて、下着を取っ払われた。恥ずかしくて足を閉じてしまいたいのに、高田くんがいるからできない。キスしながら、下の突起をくに、と押される。途端ビリりっと電流が流れるような快感が押し寄せてきた。擦られたり軽く潰される度に腰がびくびくと跳ねる。初めての感覚にギュッと目つぶった。

「正直処女ってめんどくさいって思ってたけど、悪くないかも。」

攻めの手が一旦止まったので、目をあける余裕ができた。ほんのり高田くんの頬が上気していて息は荒かった。今まで触れた事のない“雄”の部分に触れて圧倒される。圧っていうわけじゃないけど、抗えない何かがそこにはあった。「見過ぎ。」と言われてぼぼっと頬に熱が集まる。その言葉で気づいたが、いつの間にか前をくつろげていて、もっと顔が熱くなった。待って、そこまでするの!?という気持ちがうわーっと押し寄せてきて、思わず顔を背けてしまう。高田くんに背を向ける形になってしまったが、逆に何か火をつけたのか、高田くんはにやりと笑った。

「初めてで後ろからご所望?なかなかすごいね?」

「は?え、ちが……⁉︎」

横向きだった身体をひっくり返されて、そのまま腰を持ち上げられた。慌てふためく私を置いて、腰を鷲掴まれて「ちゃんと息しててね。」という一言と共に、ぐっと押し入る何かを感じる。息が止まりそうになる。そして、身体が強張った。それを知ってか知らずか、背筋を指先でなぞられた。くすぐったさに力が抜けてしまう。その隙にぐっと奥まで入り込んできた。チカチカして目の前が眩しい。私がきちんと息出来るようになると、一回出て行く。そして、ゆっくりと戻ってきて、を繰り替えされる。痛くないのに、涙が出てしまう。「気持ちいいね。ぐちゃぐちゃになっちゃうね?」なんて耳元で囁かれて、びくんと反応してしまった。

「泣いちゃうくらい気持ちいいの、可愛いね。もっとわかんなくなろうか。」

そういうと、ぐっと身体を起こされた。さっきと角度が変わって、また一段と強い快感に襲われる。力が抜けるのを、腕を掴まれて後ろに引き戻された。女性が高田くんに群がるのもわかる気がする。でもあれ、なんか視聴覚室でみた飄々としていた姿より優しいきがする……?訳のわからない快感に振り回されつつ、半分意識を飛ばしそうになりながら揺さぶられていた。

「流石に避妊はしてるから安心して。」

いつの間にか寝させられていたベッドで目を覚まして、開口一番そう言われた。勉強は勉強でも、保健体育の勉強になってしまった……と思うのだった。

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Akari

皆さま、読んでくださり、ありがとうございます!順次新作をお届けしますので楽しみにお待ちください! 【おすすめ掲載】 ・打ち上げ花火に照らされて(純愛) ・僕たちの初恋(BL) ・夏の暑さに酔いしれる(不倫)

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