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純愛

打ち上げ花火に照らされて

っどーんっ!ぱらぱら…。

花火の音とともに、その閃光に照らされる智哉のシルエット。

次の打ち上げまでの一瞬の静けさに溶ける二人の吐息。

なんて甘美な時間だろう。

「はぁ…はぁ…ともや…」

「奈々…きれいだよ…」

私は、松井奈々(まついなな)。

地元の小さな会社で事務員として働いている。

事情があって、母子家庭である。

父親は、まだ歩き始めたばかりの私と、彼を支えた母を置いて、近くに住んでいた女の人と一緒に、いなくなってしまった。

お母さんは、『あの人といても苦労の多い人生だったろうし、よかったのよ』といつも言っている。

そんな私たち母子(おやこ)を助けてくれてたのは、お母さんのお兄さん夫婦。弥彦(やひこ)おじさんと、雅江(まさえ)おばさんだ。

おじさんは、花火工房の社長で、祭りの多いこの近隣では名の知れた花火屋だ。

お母さんが働いている間、私はおじさんの倉庫の事務所で過ごしていた。

火薬のにおいと、優しい職人さんたちに囲まれて、寂しい思いをせずにいられたのだ。

そんなお母さんも、私が社会人になったころ、支えてくれる素敵な人が現れて、
正直ほっとしている。

そして、私にも、ずっと気になっている人がいる—。

「弥彦さん、こっち終わりました。」

「お、智哉おつかれさんだな、どれちょっと確認してくるからお前は休憩しとけ。」

「はい。」

「お疲れ様です智哉さん。」

「あ、奈々ちゃん、こんにちは。」

あぁ、来てよかった。今日も智哉さんに会えた。

「あ、今麦茶淹れますね。」

「あ、いや…」

「私も今ちょうど、麦茶もらおうと思ってたから、ちょうどいいね。」

私が中学生のころ、おじさんのところに花火職人を目指してやってきた、及川智哉(おいかわ ともや)。

おじさんは、絶賛するほどの器用さとセンスを持っている。

私より5つ年上の彼は、花火に魅せられて、おじさんの下で働きながら、腕を磨いている最中だ。

そう、私は初めて会った時から、彼にあこがれている…。

智哉さんはいつも優しくて、よく構ってくれている。

でもそれって、どういう気持ちなんだろう?

初めて会った時は私が中学生だったから『可愛がられてる』っていう感覚だった。

確かに、社会人から見た中学生は、そんな程度なのかもしれない。

でも、大人になった今でも、智哉さんから見た私は『かわいい奈々ちゃん』のままなのかな…。

師匠の娘さんみたいな存在だから、手を出せないのかな?なんて都合よく考えるけど…。
現状、どう見ても子ども扱いされてるように感じてしまうのだ。

「はい、どうぞ。」

「ありがとう。」

長くて細い指。服や髪の毛からは火薬の香りがほんのりとする。

「奈々ちゃん、今年新作花火見に来れそう?」

「うん。また特等席で見ようかなぁ。」

「そっか。」

あぁ、このやわらかい笑顔、好きだな。

「実はさ、今年、俺のも上げさせてもらえそうなんだ。」

「え?」

「俺がデザインして俺が作ったやつ。」

「すごいじゃん!」

「はは、まぁ2発だけなんだけどね。」

なんていいながら、照れ笑いする智哉。

すごく嬉しそうだなぁ…。

「たのしみぃー!」

「…うん」

新作の発表会は、夏のお祭りシーズンが終わったころに始まる。

花火は夏っていうイメージだけど、私はこの秋の花火も好きだ。

そして、今年の新作発表会では、智哉の花火が見れる。

そう考えたら、トクベツな気持ちで心はいっぱいになった。

奈々は休みの日に予定がなく、工房に寄ってみた。

「お疲れ様でーす…ってあれ?」

そこには智哉が一人でいる姿が見えた。

「あ、奈々ちゃん。」

「コーヒー買ってきたんだけど、智哉さん一人?」

「はは…、うん。みんな現場行ってて、あ、でもコーヒーは冷蔵庫入れといて。」

「そっか、了解です。」

「俺は休憩して飲もっかな、コーヒー。」

「はーい。」

冷蔵庫にコーヒーを入れて、2本だけ持って智哉の隣に座った。

二人きりになるなんて、緊張する。

「いただきます。…はぁ、うまい。」

頭に巻かれたタオルの下には、少し汗のにじんでいる額。

細くて骨ばってる大きな手。

思わず見とれてしまう。

「もう、工房は暑いね。」

緊張のせいもあるけど、私も少しあせばんでしまう。

服をパタパタとして風をおくる。 

「はぁ…奈々ちゃんさぁ。」

ちょっとあきれたように智哉さんが視線を逸らす。

あ、やだ、見えちゃったかな?

「もう!見えました?」

照れ隠しに、ほほを膨らました。

「見えてないよ、ブルーの下着なんか。」

「もう!見てるじゃないですか!」

「嘘嘘見てない!え?マジでブルーなの?勘で行っただけ、まじで誤解だから。」

ふざけてパンチしようとしたら、それを手でよけてながら、微笑んでくる。

ほんとに興味ない?

少しは意識してほしいのに…。

「まぁでもほんと、工房(ここ)は男多いんだし、奈々ちゃんもお年頃なんだから、ちゃんと気をつけなよ。」

そう言って頭をポンポンされる。

「はーい。」

ふいにされた頭ぽんぽんは、何気に嬉しかった。

けど、なんか保護者っぽい。

「智哉さんにも気をつけたほうがいい?」

なんて、聞いてみたりした。

「ははは…。そうだよ、俺にだって気をつけろよ。」

あぁ、なんかちゃかされてるなぁ。

こんなに近くにいるのに、
近づいたり離れたり、どうにもならない関係性が、本当にもどかしかった。

夜、お風呂に入って一息つき、昼間のやりとりを思い出す。

自分の頭に触れてみる。

こんなふうにボディータッチされるの、意識しちゃうのは私だけ?

ドキドキしているのは私だけで、妹と接しているような感覚なのかなぁ。

だって、ほんとにさりげない感じだし…。

火薬の香りや、あの大きな手や、あの笑顔や、のどぼとけ…。
全部に、いちいちときめいてしまうのに…。

考えただけで、体がほてってきて、恥ずかしくなってしまった。

「智哉さん…。」

ぽちゃん…。

静かな浴室に小さな水音が響いた。

夏の花火大会は、いつも会社の同期と見に行っている。

出かける前に、工房によって、おばさんに巾着を借りる。

今年は智哉の好きな紫の花柄。

それに合わせた巾着を借りに来たのだ。

「奈々もあっという間に大人っぽくなっちゃったわね。」

「まぁまだまだだけどな。」

「もう、いつまでも子ども扱いしないでよ。」

おじさんたちと笑いながら話していたら、徐々に職人さんも集まってきた。

そして、口々に浴衣姿をほめてくれる。

「馬子にも衣装ってやつだな」

「ほんと、あんたは素直じゃないんだから。ほんとは奈々が大人になっちゃってさみしいんでしょ?」

「ですよね、師匠奈々ちゃん溺愛ですもんね。」

なんて、おばさんや職人さんたちにからかわれてる。

「それにしてもほんと色っぽいねぇ。」

「今日は彼氏も一緒なの?」

職人さんの一人が言った。

「彼氏なんていねぇよな?」

「もう!…、まぁほんとにいないですけど。」

「えぇ、もったいない。俺がもっと若かったらなぁ。」

一番年上の花火師さんが、泣きまねをした。

そこに、

「みんなそれ、今の社会ではセクハラですよ。」

と言って、笑顔の智哉が現れた。

「え?こういうのもダメなの?」

「奈々ちゃんかわいいから、ほめてただけなのに。」

そういうみんなの間を抜けて、智哉が私のそばに寄ってきた。

「似合ってるね。でも…」

と言って、襟元を少し寄せる。

「開きすぎ、吉〇にでも働きに行くの?」

「…な!それもセクハラですよ!」

「あぁ、もう一人いたなぁ、過保護な若年寄。」

なんて職人さんたちが笑っている。

「ほら、ほら、もう時間よ、いってらっしゃい。」

おばさんの一言で、みんなそれぞれ散っていく。

「いってらっしゃい。」

私の声に、智哉は振り返って微笑んでくれた。

こういうの、ほんと期待しちゃう。

夏が終わるとすぐにわるとすぐに、新作の花火発表会の準備が始まる。

「打ち上げ場所のそばまでくる?」

「うーん、あそこは場所狭いから、やっぱりみんなの邪魔にならないように、公会堂のそばで見ようかなって思って。」

「そっか、了解。」

いよいよ、待ちに待った、智哉のオリジナル花火があがる時間だ。

新作発表会当日—。

快晴で弱い風。

絶好の花火日和だ。

夕方になって、公会堂のほうへと向かった。

こんなとこで見る人はいなくて、私一人だった。

徐々に薄暗くなり、川向うがにぎやかなのがわかる。

近所の人は家で見る人も多いから、夏祭りほどじゃないけど、それでも花火好きは多い。

遠くでアナウンスが聞こえて、少しずつ花火があがり始める。

いよいよ、おじさんの工房の番が来た。

“弥彦工房、5号、七里香(しちりこう)”

あ、これだ。

線を描いて、智哉の花火が夜空を登っていっている。

っどどーん!

なんてきれいな白と紫の菊花だろう。

その音が、私の下腹部に響いて刺激する。

あぁ、この花火は、あの手で作り出されたものなんだ…。

夜空に広がるそれに、智哉に抱きしめられているような気持ちになった。

そう思うだけで、奈々の胸が締め付けられるような感じがした。

空一杯に広がる花火と、残り香で、私の中は智哉でいっぱいになる。

“弥彦工房、10号 大輪の想い”

どっっドーン‼パチパチパチ…。

はじけ飛ぶいくつもの光。

成功だ。なんだか感動して、目頭が熱くなってくる。

その余韻に浸っていると—。

「奈々ちゃん。」

名前を呼ばれ、振り返る。

「智哉さん…」

「師匠が、あとはいいから、奈々ちゃんの感想聞いて来いって…」

もう、おじさんったら…。

「どうだった?」

「よかった…。」

「奈々ちゃんの好きな色でしょ?白、と黄色も。」

奈々は、こくりと頷く。

「え?泣いてるの?」

次に上がった花火で、私の顔が照らされて、涙を見られてしまった。

「…、え?あ、だ、大丈夫?なんかあった?」

と、慌てる智哉。

「ち、違うの、あの、感動しちゃって…」

私がそういうと、

「…よかった」

そう、胸をなでおろしたようにして、そっと、私を抱きしめた。

「よかった、奈々ちゃんを喜ばせてあげられた…」

「え?」

急に彼の香りに包まれて、ドキドキが加速する。

待って?何この状況。

「…、もう奈々ちゃんも大人だから、いいよね…」

え?え?

「彼氏、いないって言ってたけど…、それ、俺がなってもいいかな?」

思いもよらない告白に驚きを隠せない奈々。

「…う、うん」

嬉しすぎて、うまく言葉が出ない。

チュ。ふいに唇を奪われる。

「!と、智哉さん!」

「俺今、最高に気分高ぶっちゃってて、なんかごめん。」

そう言いながら、智哉にきつく抱きしめられる。

そして、まるで花火の散り際のように、智也の唇が私に降り注いだ。

「…、智哉さん…」

「はぁ、やばい、ごめん」

花火が上がるたびに、智哉の切なげな表情が見える。

そして―。

私の唇に触れた智哉の唇が、深く深く重なって、そこから生暖かい感触が、私の唇を、割り入ってくる。

「…!ん…ふん…」

「…ん…もっと開いて。」

吐息のように、甘い声。

奈々は言われるがままに、智哉の舌を受け入れた。

そのまま舌を絡め合い、どちらのかわからない唾液を飲み込む。

彼の頭に巻かれたタオルを掴んだら、外れて髪の毛がバサッと垂れる。

彼の髪の毛から、ほのかに火薬の香り。

奈々は思わず智哉の髪をかき上げると、その手を掴まれた。

「…!智哉さん。」

握っていたタオルを奪われ、瞬く間に両手首を一つに縛られる。

「ごめん、もう我慢できなくて、ずっと、ずっと、…好きだったんだ…」

少しかすれた声に、ときめいてしまう。

私だって…。ずっと子ども扱いされてるのかと思ってた。

公会堂の壁に、しばれた手首を頭の上で押し付けられ、身動きが取れない。

顎に手を添えて、キスをされる。

智哉の指が、顎から首を優しくなぞり、そのままゆっくりと下の方へおりていく。

「あっ、いや…」

彼の手が、服の上から胸の膨らみをとらえそうになる。

恥ずかしいけど、触られたい。

そのじれったさに、体が熱くなる。

智哉の手が、優しく膨らみを包み込む。

その部分が、さらに熱く感じる。

「こんなに柔らかくて、大きい。いつの間にか大人になっちゃって、俺を悩ませて…」

そう言いながら、ゆっくり、そして激しく揉みしだいていく。

その手は私の服の裾から、服の中へ…。

「あっ、智哉さん。外…なのに。」

「大丈夫、誰も来ないし、暗いし…それに、奈々ちゃんも…もう我慢でないでしょ?」

無意識に擦り合わせてしまっている下半身を見られて、羞恥心が広がった。

なのに、あそこは反応して、熱く濡れそぼってしまう。

パーン!

「あぁ、奈々ちゃんのおっぱい、きれいだね。」

花火の明かりに照らされた私を見て、智哉がニッコリ笑った。

あれ?智哉さんてこんな人だったの…?

と思いつつも、そんな彼にも、ときめいてしまった。

わたしも、大概だ。

ちゅ、ちゅ。

智哉は、愛おしそうに、奈々の胸に口づけする。

無意識に、ぴくんぴくんと体が動いてしまう。

チュルッ

「はっ!あっ!!」

先端を吸われて、からだが揺れる。

「フッ、かわいい。」

「智哉さん…」

「ん?どうした?あれ、もしかして、欲しくなっちゃった?」

いつもと違う、意地悪な智哉。

「欲しい?」

そう言いながら、ゆっくりと私の体をなぞっていく。

ベルトを外してファスナーがおろされる。

彼の手が、スラックスの中にはいってくる。

「…!あっ…」

「奈々ちゃん…」

下着の上からでもわかるその雫に、智哉はニヤリと笑った。

恥ずかしさと快感で、体も頭もとけてしまいそう…。

「外なのに、こんなになっちゃって…」

そう言って、指で泉の中心をもてあそんでくる。

どーん!!

花火が上がるたびに、私の知らない意地悪な智哉の顔が照らし出される。

「あぁ、俺も限界。奈々ちゃん後ろ向いて。」

私を壁に向かせながら、自分のズボンに手をかける。

その様子を、つい振り返って見てしまう。

「俺の、みたいの?」

そう言って、わざとらしく“もの”を出して見せた。

「奈々ちゃんのせいで、こんなになっちゃったんだよ。今から、これ、奈々ちゃんのに挿入(い)れるからね。」

そういってすぐに、奈々は腰を引かれ、お尻を突き出す形にされてしまった。

「うわ、びしょ。」

智哉は嬉しそうに、ペニスで私の割れ目をなぞる。

ゾクゾクする。

「やべっ…、滑って呑み込まれちゃいそう。」

ぬちゃ、

花火の合間に卑猥な音が響く。

グリッ

「あっ!」

突然、中に圧迫感が押し寄せてきた。

「あっ、ごめん、はいっちゃった。」

あぁ、あそこが。とろけそう…。

揺れてしまう腰を、ゆっくり抱きかかえながら、

「そんなに欲しかったんだね。今、もっとよくしてあげるから。」

そう言って、いきなり強く突き上げられる。

「あっ、あっ、智哉さん。」

「ん…!奈々ちゃん、いくら人いないって言っても、少し声おさえないと。」

その言葉にハッとして、奈々は我に返る。

「はい、これ。」

手首からタオルが外され、口にあてがわれる。

「これ咥えてて」

そういいながら、智哉の腰は、いっそう激しく打ち付けられてくる。

パチパチバチ…、ドンドンドン…。

花火が連続で上がり始める。

その閃光で、壁に映る二人の影にドキッとする。

あん…私、智哉さんと、繋がってるんだ…。

「花火のおかげで奈々ちゃんの全部、よく見える。」

「あん、花火師なんだから、‥花火…見なきゃ…」

「無理だよ…。こんな奈々ちゃんが目の前にいるのに…」

わかってる。 

私だって、今は、花火に照らされるたびに広がる羞恥心と快楽に、支配されてしまっているのだから。

「奈々ちゃん、おれもう…」

「うん、‥うん。」

奈々は、智哉の質量が増しているのを、体で感じていた。

「奈々ちゃん、こっち向いて。」

智哉と向き合って、膝を抱えられる。

恥ずかしいのに、視線をそらすことができない。

びちゃぴちゃと、私からあふれる愛液が、地面を濡らしていく。

花火も、クライマックスで、川岸や、空一面に次々と打ち上げられる。

彼の首に腕を絡ませ、必死で絡みついて応える。

「あっ、はっ…ともや…」

「奈々、きれいだよ…」

「あっ、もう、やだ、なんか溢れちゃう!」

「…う、なな…一緒に!」

ドドーンっ!

「はぁ、はぁ、」

一緒に上り詰めた私達は、少し息を整える。

“本日最後の打ち上げです”

そのアナウンスに、二人ともハッとする。

「やばい戻んないと。」

焦っているのに、少し名残惜しそうな智哉。

繋いだ手が、なかなか離せない。

「うん、早く行って。」

そう言って、スッと智哉の手をすり抜ける。

「うん。」

一瞬背中を向けたけど、すぐにまた私を抱き寄せて、触れるだけの優しいキスをする。

「大好きだよ。」

そう言い残して、いつもの笑顔を見せたあと、智哉は河川敷に消えていった。

「わたしも、大好き。」

彼を飲み込んだ暗闇に、そうつぶやく。

どーん!

そして、今年最後の花火が打ち上げられた。

私は今年の花火を忘れることは、できない。

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Akari

皆さま、読んでくださり、ありがとうございます!順次新作をお届けしますので楽しみにお待ちください! 【おすすめ掲載】 ・打ち上げ花火に照らされて(純愛) ・僕たちの初恋(BL) ・夏の暑さに酔いしれる(不倫)

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